もはや襲撃とも呼べるあの日から、わたしは完全に周りに距離をおかれていた。クラスの子たちとはわりと仲良くできてたのに、男の子たちから完璧に嫌われていた。
少しでも話しかけようものなら、

「あー、先生に呼ばれてて」
「待って逆先、ほんとに違うんだって」
「悪いけど逆先に聞いて」
「ななしやま…逆先と幸せになってくれよ…!うっ」
「ごめん逆先にころされる」
「逆先ーー!違うから!回収してって!」
「俺は無実です!」

とたらい回し状態で最終的に夏目くんに回される。
無実ですってなに?冤罪かけられてるのこっちじゃない?ねえ夏目くんはにこにこわたしを回収していくのなんで?もう少し間に入って?可愛い幼馴染みがかわいそうな目にあってるよ?
まあでもそれはそうですよね厄介ごと持ってくる女とか関わりたくないよね…!
わたしも中学生だし、彼氏とかできちゃうかも?!と思ってたけどどうやら早々に夢は砕けた模様。泣いた。
それでもめげずに話しかけてたら、よっちゃんには「かわいそうだから話しかけるのやめてあげて」とついに泣かれた。解せぬ。

「逆先くんがやきもちやいちゃうよ!」
「夏目くんそういうとこあるよね、可愛いよね」

わたしのことが大好きな夏目くんは昔からやきもちやきさんで、他の子と遊んでるとすぐ飛んできてたもんなー。「ななしちゃんはなつめのでしょ!」って。懐かしい。

「分かってるならやめてあげて…!ななしちゃんのばかっ!」
「でもわたしもみんなと仲良くしたいよ。前は仲良くしてくれてたじゃん」
「それは逆先くんみたいな子がいると思ってなかったからだよ…今のななしちゃんに気軽に話しかけられる男の子なんてほとんどいないよ!女の子だけにしよう?それなら逆先くんも怒らないし」
「えー、でも女の子たちもちょっとよそよそしくなっちゃってない?」
「あのねななしちゃん、普通の子はね、あんなことがあったらななしちゃんほど早く回復できないんだよ。みんな気を遣ってるの。ピンピンしてるななしちゃんが特殊なの」
「特殊」
「そして普通の男の子は逆先くんみたいなイケメンでやきもちやきの彼氏がいる女の子には近付きたくないの。勝てる気がしないの」
「ちょっと待って???どこからつっこんだらいい?」

そう、一番の問題はここだ。
みんながわたしとの距離を測りあぐねているのは仕方ない。さすがにあんなことがあったあとでは気まずいだろうし、分かる。
もう「あのやばい女ね」くらい思われても仕方ない。よくないけど。
けど待って?誰がなにって?

「よっちゃん、何回も言ってるけど夏目くんは彼氏じゃないよ」
「いいのいいの、ななしちゃん。クラスのみんなは分かってるから。あんなことあったら隠したくなるよね…でもわたしたち応援してるから!」
「待って〜何一つ分かってくれてない〜」
「小さい頃からお互いを好きだなんてすっごくロマンチックだよね…!ななしちゃんなら逆先くんの美貌にも負けないし!」
「美貌て。夏目くんは確かにかっこいいけど」
「なんといっても逆先くんのななしちゃんへの愛…これに勝てるものはないよね!ななしちゃんを守るあの姿は王子さまみたいだったなあ………ぐすっ、ななしちゃん、結婚するときは絶対…ぜったい、式には呼んでね…ぐすっ」
「なんで泣いてるの…?」
「お色直しは2回してね。あとななしちゃんはピンクより水色のほうが似合うし、ティアラもいいけどお花の冠も似合うからそれもやって。新婚旅行の写真もたくさん見せてね…!」

まずい、よっちゃんが完全にどこかへ旅立ってしまった。しかも全然帰ってこない。
全然予定のない計画まで立てられている。

「いいネ、ボクもななしちゃんは淡い色のほうが似合うと思うナ」
「だよね。でも大人っぽいドレスのななしちゃんも絶対に素敵だと思うの」
「ななしちゃんはなんでも似合うかラ。レースの細やかなものもいいシ、刺繍の大胆なものもいいよネ」
「やっぱりお色直し2回じゃ足りないかな?」
「最近ではたくさん着たい人たちは前撮りと式で違うものを着たりもするみたいだヨ」
「その写真、わたしも欲しい。ていうか見に行きたい」
「ななしちゃんがいいっていったらネ」
「待って、待って?!おいてかないで!なんの話?!」

本当になんの話?わたしたちまだ中学生だし就職どころか卒業もしてないしそもそも付き合ってないし、なんにも分からないんだけど。
ふたりはすっかり意気投合して話を進めているけどわたしは完全に蚊帳の外だ。
え?これわたしの話?だよね?

「ななしちゃん、結婚してもわたしのこと忘れないでね…!」
「ななしちゃん、ボクたち幸せになろうネ…♪」
「だからなんの話…?!」

なんでふたりともボケにまわっちゃうの?
え?本気?
嘘でしょ…



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