ななしちゃんは可愛い。
すごく顔が整っているってわけではないけど表情が豊かで昔から人の懐に入るのがうまくて、すぐななしちゃんのことを好きになっていた。ボクに向けてくれる表情のどれもがキラキラと輝いていて、とても愛しかった。ボクを心配して懸命に寄り添ってくれる姿が眩しかった。
ボクにとっては一番素敵な女の子だ。
彼女はなぜだかみんなが好きなのはボクだと思っていたけど…それはそれで好都合だったので黙っていた。わざわざ自分でライバルを増やす趣味もないしね。
もちろんボク以外にも可愛い笑顔を見せるし優しいのでモテていた。
君は気付いてなかったけど公園でよくななしちゃんを誘っていたあの子も、すぐ意地悪をしていたあの子もみんなななしちゃんが好きだったんだよ。絶対仲良くさせる気なんかなかったけどね?
ななしちゃんはボクのことが大好きだったからちょっとわがままを言うだけで優先してくれたけど。
小さい頃からまあまあ計算高かったので寂しさをちらつかせてはななしちゃんの庇護欲をくすぐったり、結婚すると言質をとったり刷り込みをしたり、ななしちゃんを好きな男の子たちを近づけさせないようにしたりと忙しかった。
おかげでななしちゃんの横にはいつもボクがいたし、ボクの横にはななしちゃんちゃんがいた。
ほんとは男だと知っている親たちも「ほんとに結婚させちゃおうよ」とノリノリで、着実に外堀は埋まりつつあった。

でもそれも両親の仕事の都合で引っ越しが決まるまでのこと。寂しさからお別れも言えないでいたボクをななしちゃんは怒っているのだろう。いや、ななしちゃんのことだ。きっとずっと悲しんでいる。今も。

転校するにあたりななしちゃんの周りについて調べると、やっぱりななしちゃんはまたいろんな人に好かれていた。あんなに苦労して牽制してたのに…!一からやり直しなのは悔しいけど、諦めるつもりもない。
そのためにはまず、情報を集めるところからだ。
学校の情報を手に入れるには、人の話を聞くのが一番早い。
特に悩んでいる女の子たちは聞いてもいないことまでぺらぺらと喋ってくれるし、思いもよらない秘密に繋がったりもする。こうやってネットワークを築いておけばのちのちの助けにもなるのだ。
だけどその裏にはもちろん代償が必要となる場合もある。心に重りを抱えている子は占いや占い師にのめり込むことはよくあるし、そうじゃなくてもボクを好きになる子はいるわけで。
いかに慎重にことを進めようとしても人の心は複雑怪奇でアクシデントは付き物だ。初日のななしちゃんの行動から嫉妬心を煽られている子も出てきて、それは次第に行動へ移ってしまった。
ななしちゃんを品定めしてやろうと見に来る子たちはまだ可愛いもので、物を隠したり呪いとも呼べるような手紙を入れたりとエスカレートしていって。基本的にはななしちゃんが気付く前に処理をしているけど、全てに手が回すこともできず目に触れてしまうこともある。
ななしちゃんはちょっと…その、あほなので、いやそこが可愛いところなんだけど、それでへこたれるような繊細さは持ち合わせていないとはいえさすがに少しはショックをうけているようだった。
見るからにガーン!って擬音ついてたし。
誰の仕業が分かるものはそれなりの対応をして、教室でも移動する時でも近くにいるようにした。ボクがいても攻撃に出るような子はいなかっったからだ。

そんな中、いつものように教室で占いをしていると厄介なことが起きた。
バン!と大きな音のしたほうを見ると、ななしちゃんにすごい剣幕で捲し立てているのは何日か前に告白してきた子だった。
彼女は前々からななしちゃんのことを妬んで嫌がらせを繰り返していた。当然そんな子を好きになるわけはないし、そもそもボクはななしちゃんだけが好きだ。

「このブス!」

予想外の強襲に呆然としていると聞き捨てならない言葉が聞こえた。
は?今なんて言った?聞き間違い?ななしちゃんがブスとかありえないんだけど?苛立って強い口調で言うと、まるでそんなことを言われると思っていなかったのか、その子は黙りこんだ。

そんな危険な人物の前にいつまでもななしちゃんを晒しておきたくなくて、隠すようにして立つと信じられないという顔をした。
こんなことになってもまだ自分に勝ち目があるとでも思っていたんだろうか。それどころか、未だに非を認めないその子に容赦なくとどめを刺す。
こんなことは聞かせたくなくて、怖がってるくせにそれを隠して普段通りにしようとするななしちゃんにも腹が立って、強めに耳を塞いだ。
ボクってそんなに頼りないのかな。

「君が、ななしちゃんに嫌がらせをしてたからダ」
「っ!」
「そんな子に好意を持てるわけないヨ。ボクはこの子が誰よりも大事なんだかラ」
「そんな、だって…!」
「これ以上ななしちゃんに何かするようなラ…ボクは絶対に君を許さなイ」

強く強く、気持ちを込めた。

「もうななしちゃんに関わるのはやめてよ」

その言葉を最後に泣き崩れた彼女は先生たちに回収されていき、襲撃は幕を閉じた。
震えながらも虚勢を張るななしちゃんの手を握るとひどく冷たい。

「こ、こわかった〜〜〜っ!な、なにあれ?!何がどうなったらあんな風に思えるの?!バグってるとしか思えない!」
「まあまともではないよネ」
「責任転嫁にもほどがある…っ!」
「…絶対、もうこんなことは絶対にさせないヨ。ななしちゃんはボクの大事な子だからネ」
「夏目くん…!」

こういう時こそ、周囲にきちんと釘を刺すことが必要だろう。
ボクはななしちゃんが大好きだ。だから君たち、特にななしちゃんに淡い恋心を抱いている男たち、早々に諦めてね…♪



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