あのね、わたし山口君のこと好きなんだ。
そう唐突に言われたのはついさっき。同じクラスの名字さんと花壇に水やりをしていた時だった。ほんとにほんとに突然、しかも好きな食べ物でも言うみたいにあまりにさらっと言うもんだから、俺は暫くその言葉と名字さんが浮かべた可愛い笑顔の意味がわからなかった。
「…う、うん」
なんだうんって。自分でもおかしいと思いながらも必死に声を絞り出した。もしツッキーが俺の立場なら気の利いたセリフのひとつやふたつでも言えたんだろうな。いやもしかすると気じゃなくて嫌みなんかを利かせてとっとと退散していたかもしれない。どちらにしろ、ツッキーはかっこいいしモテるからこういう状況は慣れっこなんだろうな。
そもそもなんで俺が好きなんだろうツッキーの方が絶対かっこいいのに。
「もしかして山口君、信じてない?…どうして自分なんだろうとか思ってる?」
「へっ?…あ、いや……うん」
図星をつかれた俺を見ながら名字さんはやっぱりなんて言いながらくすくす笑った。安っぽい花壇の花が名字さんの周りだけどこかの大きな城の庭にはえてるような、よくわからないけど凄く綺麗な花に見えた。
「…なんで、俺のこと…」
自分で聞いてなんだか情けなくなって名字さんから目をそらした。
「なんでって…それは山口君だからだよ」
「…え?」
「いつも月島君と一緒にいて、にこにこしてて、明るくて、バレー頑張ってて、でもちょっと自分に自信がなくて、人に優しくて…あげたらきりがないけど、全部まとめて山口君が好き。」
今度は歌でも歌うみたいに楽しそうに名字さんは言った。いつの間にか時間は過ぎていて、それをつげるチャイムの音は俺の鼓動で聞こえなかった。多分耳まで赤くなってるだろう俺が名字さんを真っ直ぐ見つめた時に、恋は始まった。
恋の始まり
20130106
mae ato