「髪、切ろっかな」

ぎしり、と古いベッドで音をたてながら名前は仰向けに寝返りをうった。視線は虚ろに自身の髪を見つめていた。白く細い指に翻弄されているそれは綺麗な黒で、長く長く伸びきっていた。

「え、きっちまうの?」

一人言の様に呟いた言葉に返事が聞こえて、名前は些か驚いたように髪を遊ぶ手を止めた。

「ナルト、起きてたの?」

「さっき起きた」

そう言いながら目を擦っている様を見ると、本当らしい。まだ開ききらない目は眠そうに瞬きを繰り返している。

「まだ寝れば?」

ナルトの頭を優しくなで、布団をかけ直してやる。朝日の昇らない早朝は季節関係なく冷え込んでしまう。

「起きてるってばよ…それより、髪…」

「あぁ、うん。任務の時とか邪魔だし、それに…」

「それに?」

眠気を含む声はまだ上手く呂律が回っておらず、名前は少し笑みをもらした。

「気分転換…かな」

悪戯っぽく笑う名前に紅潮する顔を隠そうとナルトは名前の首元に顔を埋めた。

「勿体無い」

「え?」

「名前の髪、スゲー綺麗だし、いい匂いするし。俺好きだってばよ。」

言いながら名前のうなじに優しく唇を押し付ける。名前は頬にあたる金髪がくすぐったくて、またぎしりとベッドを鳴らした。

「ありがとう。でも、邪魔なのよ」

「……そのままでいてほしいってば」

名前の背中に手を回して抱き締める。震えてしまった声に名前が気づかなければいい、とナルトは思った。ナルトにとって名前が髪を切るという事実は、ただの散髪だけでは終わらないらしい。昔からずっとそばにいてくれた名前は、ナルトにとっての安心出来る居場所だった。そんな名前が変わってしまう事がとても怖いのだ。勿論、見た目は変われど中身は変わらない。しかし見た目が少しでも変わってしまえば、多少の違和感や緊張感を感じてしまう。一抹の恐怖と不安がナルトを支配した。

「ナルト、」

ナルトの頬に手を添えて、ゆっくりと顔をあげるように促す。

ぱちぱちと瞬きを数回繰り返せば泣きそうな顔のナルトと目があった。その儚気な様に、愛しさと寂しさが込み上げる。名前は一瞬困った様に眉をよせ、それから微笑んだ。

「髪が短くなっても、私は私よ」

ようやく覚めてきた目に写った名前の苦笑いがナルトの恐怖も不安も、安心感に変えてくれた。ナルトはただなんとなく、これからも彼女は自分のそばに居てくれると確信した。

「…ショートヘア、楽しみだってばよ」





mae ato
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