夏の終わり、秋の始まり。風が強く吹く縁側で、イタチは物思いに耽っていた。それは同じ暁メンバーの名前についてだった。イタチは今までに、大切なものを守り抜きかけがえのないものを失ってきた。それからはただひたすらに自分のしたことに独りうち震えてきた。そんな中出会った、名前。彼女は自分と似た境遇で里を抜けたらしい。だからか、初めてあった時からどこか親近感を感じ、それがいつしか恋心へと変わっていった。そして今では大切な大切なかけがえのない存在にまでなっていた。

「イタチ、何してるの?」

突然した声に振り向けば、やわらかく微笑んだ名前がいた。名前の近づく気配にも気付かないくらいぼーっとしてたのかと苦笑いを溢す。

「あぁ、名前か。少し、考え事をしていただけだ」

「考え事?」

よいしょとイタチの隣に名前が腰掛ける。金木犀の甘い匂いが鼻をくすぐった。今すぐにでも抱き締めてしまいたい気持ちを押し込めて、イタチは名前の瞳をみつめた。

「名前、少し聞いてくれないか?」

「うん、どうしたの?」

小首を傾げる愛しい彼女。イタチは彼女を、名前を信頼しきっていて、頼りきっていた。だから、全て話してしまいたかった。聞いてほしかった。自分を襲うどうしようもない不安と恐怖を。そしてその奥に秘めた覚悟を。

「…もし、俺が、」

嫌な汗が耳の裏を伝った。どうしてか息が声が詰まって次の言葉が出て来なかった。名前に聞いて欲しいのに、わかって欲しいのに、
「イタチ」

不意にイタチは甘い匂いと温もりに包まれた。優しく名前はイタチを抱きすくめ、まるで子供をあやすように背中を撫でた。

「大丈夫だよ、大丈夫。ずっとイタチの側に居るから。」

だから泣かないで、と聞こえて初めてイタチは頬を濡らすものに気が付いた。自分でもどうして泣いているのかわからなかった。否、当の昔に涙の理由なんてわからなくなっていた。ただ今は、名前の愛が心に染みているのだと思った。

「名前、」

それでもどこか救われない気持ちもあった。だがそれは名前の次の言葉によって消えていった。

「もしもイタチが遠い場所に行ってしまっても、私もすぐに追いつくよ」

そう言って微笑んだ彼女はとても穏やかだった。名前はきっと気づいているとイタチは思った。刻々とやってくる、恐怖、生命の終わり。

「…ああ」

ありがとう、そうイタチも優しく抱き返し微笑んだ。もはや不安も恐怖も無くなっていた。寧ろ、くる時が来て、それから生まれ変わって何も背負うことなく名前と愛し合えればいいなどという考えが頭の隅を横切る。強かった風はいつしか穏やかに凪いでいた。


もしも
(全てが終わる)
(その時まで)







mae ato
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