「あの時の私が私だったわけじゃないから、キミは実在しない人を気に入ったってことになるかもね。どっちにしろ分かってほしいことを分かってくれない人を好きになってあげることは出来ないし。そういう人なんですよ私は」

電話越しにバカみたいに語る。
友達だから好きと言える。だから何も言って欲しくない。今のままがいいんだよ。
頼むからその好意を言葉にしないで。
キミを嫌いになってしまいそうだから。

「キャラ作ってるってやつ?へーきへーき俺もそんなもんだし。それにお前が今までしてきたこと全てが嘘だったわけじゃないじゃん」
「決めつけないでくださいよ、バカじゃん」

突き放すように言うと、かもね、なんて気にしてない風に返事をする。
こういう雰囲気が嫌いなんだ。まともじゃない。
熱に浮かされる様で不気味。

「私は頭がよくて、全てを理解してくれて、一緒に喜怒哀楽をシンクロ出来るような人が理想なんだ。残念ながらその理想とかけ離れているキミには謝ることしか出来ないね」

いつだってそうだ。
青春時代の告白されるシーンと言えば、もっと甘酸っぱくて嬉しいとか恥ずかしいとかいう感情で満たされるはずなのに。
なんて無意味な時間だろう。されてることは同じでも、現実はもっと気だるい。
持論を語るのも嫌いではないが、彼相手に一晩語り明かしたって何の変化も期待できないだろう。きっと次の日には無かったことになるのだ。
理想と現実はかけ離れすぎている。
私は皆に気づいてほしい。私の中にある黒い部分が人一倍大きいこと。
同情でもいいから何かがほしい。
こんな貪欲な私を知って、彼が私を好きでいるはずがない。
現実は理想に追いつかない。
だからこの世が大嫌いなんだ。

「それでも俺はお前のこと嫌いじゃないね」
「私もキミのこと嫌いじゃないけど好きでもないね。なんたって理不尽なところがあるからさ」

こんなにかわいくない女が人に好意を寄せられていいはずがない。
なにより、明確な想いを寄せられることを私は好まない。はっきり言って苦手だ。もう少し正直に言うとおぞましい。
どこまでも理想を追い続ける私は、曖昧な想いに、期待と好奇心を持ちたいと願っている。
だから私はどこまでも理不尽な彼の電話に素っ気ない言葉で終止符を打った。


なんたってかわいくない女

(この世なんて理想と憧れと秘密と自惚れで出来ていればいい)