そろそろ死んでもいいかもしれない。
 
手紙でなんとなく皆に謝れば、死ぬことに同情してくれたりするかも。そうすればあまり責められることもないかな、と私は考えた。
密閉された現代社会で感じにくくなった解放感。自分の存在を抑える感覚が狂って怖いくらい。
こうして立っているだけで自分は人間だと自覚することができる。
――だからこそ、日常じゃない感情の起伏に絶大な快感を覚える。
最近自分が可笑しいと分かってるから、自分が狂ってるだなんて思わない。そういうのは自覚が無いものだと思う。だからこれは、情緒不安定ってやつである。
鬱とかそんな重いものでもないと思う。私は至って普通の病んでるだけの人だ。
ただ日常生活に喜楽を感じず、生きていることに生を感じないこの現状にいい加減飽き飽きしてきただけ。
 
「生きてても、死んでも、いっしょなんだろうな」
 
こう、シリアスにものを考えると自然と悲しいような気持ちになって、いい時は泣くことさえできる。その瞬間は特に『生きてる』と思えるから好き。
全てが海の藻屑に思えるほど、好き。
ああ、危険だ。やっぱ狂ってるのかもしれない。
この感情は純粋で、好きと言うのが一番適切だと思うが、この深さは愛に近い。
だがこうして冷静に考えることが出来ている分、帳消しだと思いたい――なんて死ぬ間際に自分はまともだと言い聞かせるなんてたいそう惨めな気がする。
 
私は鞄の中に免許証と誰に見られてもいいような手紙となんとなく持ってきてしまった貴重品が入ってるのを確認して、足元に目を落とした。
この場所に来て死なないのもプライドが許すに許せなさそうなので、さっさと終わらせてしまおうと思った。
最後に一度深呼吸した。
息が震えたことがすごく気に食わない。まるで死ぬのが怖いようだ。
分かっている。私は緊張しているのだ。いつ以来だろう。こんなにドキドキするのは。
思いのほか冷静でなかった自分に素直に驚きながら、伸びをした。
涙が出たのは、嬉しいからだろうか。いや、きっと欠伸の所為だ。
 
「世界の裏側は素晴らしかったよ」
 
私の世界も、全てが輝いていた。美しかった。そう見栄を張っていたかった。
輪廻転生するなら、人間以外のものがいい。
もし、全てに魂が宿っているというのなら、私は来世で―――、また、海の藻屑のように死ぬのだろうか。
 
そろそろこの廻りも終わってくれてるといいかもしれない。
 
そうすれば無駄な命を生むことはないし、必要な命を失くすこともないだろうにな、と私は考えた。
 

生きる意味は求まない

(だからせめて綺麗に死なせて)