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あれから黄瀬君は青峰君のいるバスケ部に入った。

黄瀬君がバスケ部に入ってから2人はこの体育館ではなく部活でバスケ部強豪校ならではのバスケ部専用の体育館で練習していて此処に来ることが少なくなった。あっちならここより広くてバスケの設備も整っているし此処で練習する必要が無いのは分かってる。でもそれまで傍にいたのに離れていくのはやっぱり寂しい。
最初は1人でバスケをしているのが楽しかったのに黄瀬君や青峰君に教えてもらうようになってからもっと楽しくて、バスケをするのもそうだけど、バスケをする2人のプレーをもっと見ていたいって思うようになっていた。なにこれ、最初と違うじゃんか。私は人に何か言われるのとか見られるのが嫌で1人でバスケをしていたはずなのに、3人がいいなんて、

1人でバスケをする体育館は人が居ない分広く、前はこんなこと思わなかったはずなのに、ドリブル音が響く体育館はやけに寂しく見えた。
はぁ…と溜息をしてボールを落とす。
転がっていくボールを横目で見ても追いかけようとせず、床に寝転がった。
なんだかもう今日はバスケする気しないな…そろそろ中間テストだしもう帰って寝ようかな、できたら勉強して

「おいおい、サボりとは良い度胸じゃねぇか」

あの厳しくて怖い顔をした青峰君の声が聞こえた。
と同時に床に寝ていた私の顔すれすれに勢いよく投げつけられたボール。

「ちょっと青峰っち、それは危ないっスよ。万が一手元が狂って苗字さんの顔に当たっちゃったりでもしたらどうするんスか」
「そんなヘマしねぇよ」
「あ、青峰君に黄瀬君っ?!」
「おう、久し振りだな」
「元気っスかー?」

そうして登場した2人はバスケ部のユニフォームを着た状態で入ってきた。
黄瀬君がバスケ部に入ってからこうやって集まるのは久し振りで嬉しい。けど会った早々行き成りボールを投げつけてくるなんて「お前がだらけてるのが悪いだろうが」…返す言葉もございません。黙り込む私をいいことに、お前はノロマで運動オンチなんだからもっと気合入れて人一倍努力しなきゃ駄目だろ、だからクズなんだよミジンコ!などと言いたい放題に言ってくる。く、悔しい…っ

「今は部活中じゃないの?」
さっきから気になっていることを聞いた。
だってまだ部活が終わるような時間じゃないし2人ともユニフォーム姿ということはもしかしたらさっきまで試合をしてたのかもしれない。そうしたら彼らはまだ部活中ということでこんなとこに来る暇なんてないんじゃないだろうか。
そう思っていたら、黄瀬君がそのことで報告があるんスよ!と身を乗り出して言ってきた。

「なんと俺、一軍入りしたんス。レギュラーっスよレギュラー!」
「えぇっ?!す、凄いよ黄瀬君、凄いっ!」

私の反応に嬉々として話す黄瀬君のテンションがもっと上がり、でしょでしょ!と言ってもっと褒めてと乗ってくる。
にしても凄い。だって黄瀬君、バスケ部に入ってまだ1ヶ月位しか経ってないのにレギュラーなんて!そう考えるとやっぱり黄瀬君は天才なんだなと思う。3人でバスケの練習をしていたあの時、黄瀬君も私と同じバスケ初心者だって聞いたときは本当に吃驚したもん。驚くべき成長スピードで進化していってるんだ。これからも黄瀬君はバスケのレギュラーとしてさらに成長していくんだろう。あれ、黄瀬君が一軍になったということはもう此処にこなくても青峰君と同じコートに立てるということで、そしたらもう黄瀬君も青峰君も此処には来ないんじゃ。
喜びも束の間、いきなり別れを宣告されたような感じに頬が引きつった。
駄目駄目、黄瀬君は念願叶って一軍に入ることができたのにその努力を傍で見ていた私が喜べないなんて!
無理してでも笑う。相手に悟らせないように。そうだ、黄瀬君は今幸せなんだ。私1人の唯の我侭なんかで黄瀬君を困らせちゃいけない。笑え。笑え、私!
なんだろう、隣に立っている青峰君の視線が痛い。でも黄瀬君は気付いていない様子で

「苗字さんはあれからバスケどん位上手くなったんすか?」
ちょっと見せてくださいよと言われてその場で試しにドリブルをする。

「お、前より動きがスムーズになったっスね!」
「まだまだおせぇよ」
うう、やっぱり青峰君は厳しい。
褒める黄瀬君と厳しく指摘する青峰君。
こうやって2人に見てもらえるのもきっと最後なんだろうな…

「苗字さんはやっぱりバスケ部には入らないんスか?」「うん、私なんかじゃ…」「無理だろ」「オブラート!オブラート!」
でも何も分からない初心者が1人でやってても上達は中々しないっスよね。と言われる。

「そうだ!苗字さんもバスケ部入ればいいっスよ!」
「あの…、え?」
いや、だから私にバスケ部は無理だと…
1人、目をキラキラさせて名案だという黄瀬君の意味が全く分からない。

「あの、だから私、バスケこの通り全然上手くないし今から部活に入るなんて無理だよ…」
「ああ。そうじゃなくて、うちのマネージャーとしてバスケ部にくればいいっス!」
「えぇ?!」
「おい黄瀬、何勝手に」
「だとしたら善は急げっス!」

え、私の意志は?というのも聞かず、青峰君の言葉も聞かず、行き成り黄瀬君に腕を引っ張られて連れ去られる。え、どこに連れて行かれちゃうの私。掴まれた腕が痛い。痛いよ黄瀬君っ!


腕の痛みが引いた頃、私はバスケ部が使っている体育館の真ん中で正座していて、何故か6人の人に周りを囲まれているという奇妙な図ができていた。


「……これは一体どういうことだい?」
リーダー格であろう赤い髪の男子が黄瀬君に視線を送って、また私に戻す。
「マネージャー希望の苗字さんっス!」
え、私マネージャーになりたいなんて一言も言ってな「あ、もしかして君が青峰君が言っていた小さくてバスケが下手な女の子?」え、何この言われよう。
そう言ったのはピンクの髪をしていてこの中で唯一の女子だった。この中にいるということはこのバスケ部のマネージャーさんかな?すっごい美人だ。
「マネージャーなどもう桃井がいるだろう。態々増やすことも無い。」
緑の髪をした男子が眼鏡をクイっと上げて言う。…なんで片手にクマの人形持ってるんだろう。
「あれ、同じクラスの……」
紫の髪をしているすっごく長身でいてのんびりした口調の彼は
「む、紫原君っ!」
同じクラスでいつもお菓子ばっか食べてる紫原君だ。
「知り合いか?紫原。」
「んー、同じクラスー。黄瀬ちんとも一緒ー」
紫原君の答えにああそうかと赤い髪のリーダー格は納得する。
あれ、私このままどうすればいいんだろう。そうすればいいか戸惑っているとリーダー格君がやっと私に話しかけてくれた。

「すまないが緑真の言うとおりうちには桃井がいてマネージャーは間に合っている。出直してきてくれないか」
赤司っち!と黄瀬君が声を上げるけど、彼が言ったことはつまり無理っていうことだ。当たり前だよね、行き成りマネージャーになりたいなんて押しかけてきて断られるのなんて当たり前だよね。あれ、私がマネージャーになりたいって言ったわけじゃないのになんでこんな悲しいんだろう。唇を噛んで下を向く。なんだろう、涙が出そうだ。
動かない私に邪魔だというようにとさっきの人の視線が突き刺さる。無言で誰も喋らない。彼が言ったことは絶対のようでさっきまで話していた人も黙りこくってしまっている。そんな中その無言を破ったのは青峰君だった。

「あぁ、そういやぁ…」
「?」
「今年の夏の合宿はたしか自炊だったな……」
「「「「「!!!!!」」」」」
あれ、皆どうしちゃったんだろう。
「大丈夫よ〜。皆が練習してる間、私がちゃんと皆のご飯作っておくからっ♪」
ピンクの髪をした子がそう言うのを聞いた皆はダラダラと汗を噴き出している。あの涼しげな顔をしたリーダーも。一体どうして?

「…苗字と言ったな」
「あ、はい」
「ここのマネージャーになる事を許そう」
「え?」
なんだか行き成り心変わりされた?さっきマネージャーはいらないって言っていた緑の髪の人もブンブンと首を縦に振って、桃色の髪の人に「お前はマネージャーの仕事があるんだから料理はソイツに任せておけばいいのだよっ」と言っている。すごい必死だ。

「良かったっスね!苗字っち!」
「う、うん。ありがとう黄瀬君っ」

あれ、黄瀬君の私を呼ぶ呼び名が変わってる。
青峰君も近寄ってきて、頭に手を置かれて「良かったな」と言ってくれた。今日の青峰君はなんだか優しい!

最後にリーダー格の人が、異論はないな?と言い、皆首を縦に振って同意した。
その中で「僕も異論はありません」と聞きなれない声がして左右を見るけどその声の人は見当たらない。聞き間違いかな?
その後皆から自己紹介と共に握手をしていって、これで全員かな、と思うと

「あの」
「うわぁぁぁ?!」
「黒子テツヤです。宜しくお願いします」
「あ、こちらこそ、宜しくお願いします」
そういって握手をする。なんだろう、この子。話しかけられるまで全然気付かなかった!いつからいたんだろう、とか思っていると。「最初からいました」と黒子君に言われた。え、何これテレパシー?「そういう顔をしていたので」あ、そうですか。なんかごめんなさい「いえ」………。

そうして皆と自己紹介をして、私はこの男子バスケ部のマネージャーになりました。
中間テストが近いから練習はテスト明けということになるけど。
なんだか色々とすごいことになっちゃったなぁ……。




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