幻想に終わりを告げた






振られる覚悟で告白した。私の一世一代の告白でこの人生の中で恐らく一番の出来事だと思う。
告ったら断られて友達と一緒にカラオケ言って飲んで、そして楽になろう。そう思ってたから彼が
「いいっスよ」ってOKしてくれた時は死ぬほど嬉しくてもう一生分の幸を使ってしまったような感じで
すっごく舞い上がってた。そんな私を黄瀬君がどんな目で見ているのか知らないで。



付き合って3ヶ月経った今でも黄瀬君の周りには相変わらずいつも沢山の女子で囲まれていて人気の的だ。背が高くて格好良くて運動神経抜群な彼が極めて普通でそこまで秀でた才能も無い私とどうして付き合ってくれたのか。偶にそんな事を考えてしまう。ネガティブなんかじゃない。よく考えて、私と黄瀬君では釣り合わないのをちゃんと理解していたのだ。

だから彼の周りが如何に女子で溢れていて持てはやされていようが嫉妬しても言葉に出すことはしなかったしモデルやらバスケで忙しい彼に無理に時間を作ってとは言わず彼から誘ってくれるのを待った。
寂しくないと言ったら嘘になる。本当は黄瀬くんと一緒にいっぱい喋ってたいしいつまでも一緒にいたい。
でもそんな私のわがままで彼を縛ることはできなかったし、私のお願いを聞いてくれた彼に良い人で見られたかったのもある。
付き合う前はあまり接点がなくて唯のクラスメイトの立場で、私の一目惚れだった。
付き合ってから学校で会って挨拶をしたりとか時々話したりとか、ファンの子たちに紛れながら部活を見に行ったり家に帰ったらメールしたりとかした。でもあまり表だって接したりとかしてないから私達が付き合ってることはきっと誰も知らない、私と彼だけの秘密。
そう思うと不思議と寂しさも和らいで強くいれた。それが心の支えだった。




「ねぇクラスの片岡さんと黄瀬君が裏庭でキスしてるの見た人が居るんだってーっ」
耳を疑った。
思わずその会話に聞き耳を立てる。
「え、まじで?」「付き合ってるのかなー」「あの人も確かモデルやってるんじゃなかったっけ?」「どっかのお嬢様じゃないの?」「どちらにしてもウチらに勝ち目ないよねー。あー、ショック〜っ」
この話は本当だろうか。私と黄瀬君は付き合っていて、片岡さんは黄瀬君とキスしてて?もしそれが本当だったとしたら私は捨てられたということだろうか。でもそんな素振りは無かったし昨日だっていつもみたいにメールした。じゃあなんで?私は彼の何?



『名前っち、今日久しぶりに一緒に帰らないっスか?』
放課後、黄瀬君から来た久しぶりの誘いのメールに何時もなら喜ぶはずなのに、今回だけは喜べない。すごく胸が重くて苦しい。

それでも私はいいよと書いて送信した。


黄瀬君とは学校から少し離れたファーストフード店で合流して並んで歩く。
最初はいつも通り、いつも通りと重く沈んだ心の内を見られないように明るく振舞ったが段々下がってくる。ふとした瞬間に私の脳内に潜んだ誰かが『こんな事したって無駄なだけよ』と囁いて来るのだ。段々会話は途切れ途切れになり、表情は重く、俯いてしまう。

「名前?どうしたんすか?元気ないっスねー」
どっか具合が悪いんスか?と言って黄瀬君は私の目の前に立ちしゃがむので足が止まってしまった。さらに彼は額に手を当てて顔を覗き込み、そのまま黙り込んでしまった。

潮時なのかもしれない。
夕日に照らされてアスファルトの上に影が嫌に伸びていた。



「黄瀬君、私達もう終わりにしよう……?」
「…何、言ってるんスか……?」

いつもどこか余裕のある表情で格好良い彼が余りにも信じれないような顔で言うので私はなんだか最後に私の知らない、こんな表情の彼を見れて少し嬉しかった、なんて場違いなこと思ったり。ある意味私のほうが余裕あるのかな、なんて


「黄瀬君の事、好きでした。」

私、もう疲れちゃったの。
あの日、彼が他の人とキスをしたって聞いてから今まで。他にもいっぱい色んな子としたんでしょう?私だけが黄瀬君と付き合っているだなんて、違ったんだよね。最初はね、それでも黄瀬君は私の事好きでいてくれるって、裏切られてないって信じて疑わなかった、けどもう無理なの。見ちゃったの、黄瀬君が他の女の子に好きって言ってキスしているとこ。あんなの見ちゃったらもう、どう信じて良いのか分からないよ。ごめんなさい、好きでした。本当に好きだったんです。最初は一目惚れとかいう理由で他の子達と同類で信じられなかったかもしれないけど、だけど今は黄瀬君の頑張りやなところとかちょっと子供っぽくて生意気なところだとか素直なところだとか授業中の可愛い寝顔だとかバスケをしている時の輝いてて格好良いところも、いっぱい、いっぱい好きなんです。だからこの気持ちは嘘だとか、そんなこと思わないでください。運動神経が良くてモデルだからとか、それだけじゃなくて、本当に好きだったんです。好き、でした。だから


さようなら




bark