引き延ばされたプロポーズ






「……なんで雨なのよ」

朝起きて目を開けると窓の外は雨が降っていてどんよりと雲が空を覆っていた。
今日は彼とのデート、なのに天気は雨。
彼とは、今度の日曜日晴れたら海に行こうよとか言ってたからやっぱり今日は中止だろうか

プルプルッとコールが鳴る電話に体が跳ねて急いで着信に出る。

「もしもし、ナマエ?」

「あ、ギャリーおはよう。
 今日雨降っちゃったけど…海は中止、かな」

「……そうね」

あ、やっぱりそうだよね。
返ってきたいつもの彼の声とは違う低いトーンに心が沈む。
ちょっと期待しちゃった私ってば本当馬鹿。
雨の日でも会いたかった、けどこんな暗いときに会ったんじゃ楽しくもないもんね。
無理して笑って高いトーンで、また今度、晴れたら会おうねって言って早々に電話を切る。
電話を耳から話すときギャリーが焦って何かを言おうとしてたようだけどすぐ切ってしまってまた掛けるのが億劫だった。

なんで今日雨なんだろ、
今度また遊ぼうって自分で言ったけどそれっていつ?
お互いスケジュールが合わなくていっつも会えなかった。
今日は3ヶ月ぶりの久々のデートだと思ったのに
嗚呼、本当ついてない。

窓からぶら下がってにこにことこっちを向いて笑っているてるてる坊主
笑顔が無性にムカついて乱暴に引っつかむ。
コイツは作ってやった恩も忘れたのか、
何よ、天気予報だって今日は50%/50%だったのに
たった1%も覆せないのか、この役立たず坊主っ!
ゴミ箱のほうへ投げるも入らない。
苛々が募るばっかりだ。

ベットの上にこの理不尽な怒りをじたばたとぶつける
内になんだか悲しくなってきた私は疲れてもう一眠りした。

とは言っても今日を楽しみにしていた私はもちろん前日にこれでもかというほど睡眠を摂っていたし
雨音がうるさくて中々寝付けない。それにまだ胸がもやもやする。





「こうなったら雨の日をとことん楽しんでやろうじゃない」

そう思って、長靴に合羽を着た完全武装。
傘を差し、他には何も持たず雨の中へと飛び出した。


「あめあめふれふれかあさんが〜っ」

わざと水溜りの中に足を突っ込みジャプンジャプンと音を立てる。

「じゃのめでおむかえうれしいなっ」

バシャンっと両足から水溜りに入り目の前を見ると、私は待ち合わせだった時計塔のある公園まで来ていた。
あーあ、雨じゃなかったら今頃ここで私はギャリーとデートだったのに。
というか何で中止にしちゃったんだろう。
別に海じゃなくてもショッピングだとか色々あったじゃない。
冷静になった頭で思い出して後悔。
でも海、行きたかったなぁ…

だってギャリーがあそこの夕日がすごく綺麗っていうから
浜辺が赤く照らされたロマンチックな空間の中、
二人で座って肩を寄せ合っていいムード…そうしてキ、キスなんかしちゃったりっ!そしてプロポーズを…
なんてデートに誘われた日からずっとずっと妄想してたから
今まで脳内シュミレーションしてたのが一気に崩れ去ったショックでもうブルーで何も考えれなかったんだ。
私の馬鹿。ほんと、ばか

そうしてなったのがこんな結末だなんて思ったら頬が濡れた。
ふと上を見上げて傘を見るけど穴があいてたりなんてしてない。
あ、なんだ。これ雨じゃなくて私の涙か。

気分を変えようとここまでやってきたけどやっぱり無理みたいだ。
家に帰ろうと足を返すと

「ナマエ…?」

青い傘を差したギャリーと目が合った。
どうしてここに?
え、なんで?デートはなくなったはずじゃない。
なんだろう彼が歪んで見える。

酷い顔をした私をみて彼は驚いた後、すぐに困ったように眉を下げたけど口元があがった。
私の傍に来て背を少し屈ませたギャリーは私に手を差し出して

「こんな雨の日で海には行けないけど、アタシとデートしてくれませんか?お姫様」

2人で手を繋いで歩いた。
そうして話していて分かったことは、

ギャリーもこの日を楽しみにしていたこと。
私が電話をすぐ切ったとき、ギャリーは違うところに誘おうとしていたこと。
ギャリーも同じように此処にたどり着いたこと。
それと、


「ギャリー」

「どうしたの?ナマエ」

「次はきっと海に連れてってね」

「もちろん。待ってなさい、
 忘れられない1日にしてあげるから。」


…きっと彼も私と同じ気持ちなこと。

(ところでコレはどこに行っているのかな?)
(あぁ、アタシの家よ)
(えぇ?!)



bark