家庭教師は猫被り (SSS)






長々と並べられた数字、言葉、記号を認識できず暗号のようなそれに思わず舌打ちが出た。

「感じ悪い。」

目の前には眼鏡を掛けて後ろ髪を結んだギャリーさんがいて、さっきでた舌打ちに眉を潜めてこちらを見ている。

この人はギャリーさん。
私の家のお隣さんで2つ上で、週末こうして勉強を教えて貰っている。
別に彼に憧れてだとかそこの大学にどうしても入りたいとかそういう訳じゃない。
ただ私のお母さんがお隣さんに来た彼をえらく気に入って世間話とかしていたら
彼の学歴にまぁすごい!とか家の子にも見習わせたいとか勝手に私の知らないところで話が進んで
気がつけばいつの間にか家庭教師に来てくれるだとか、なんてことだ!

彼はここの近くの一流大学に通う為にわざわざ引っ越してきたらしく一人暮らししている。
彼は学校もあるのに料理だとか洗濯だとかで大変よねと思ったお母さんは偶に夕食に彼を誘うようになり、そのお礼として何か役に立てることはないかと思った、そこまでは分かる。
それで思いついたのが私の家庭教師?何故そこで何の関係もない私が彼と一緒に勉強をしなくちゃいけないんだ!

「ほら手が止まってるわよ。こんな問題も分からないの?」

挑発的にニヤニヤとこっちを見て言う彼に無性に腹が立つ。


初日、自分の事をあまりよく思われていないと語った彼は次の日から私に素で話すようになった。変な人だと思っていたがまさか頭まで壊れているとは。
休憩に飲み物とお菓子なんかを持ってお母さんが部屋に入ると表情は一変、精々しい位なまでの笑顔としっかり男口調で話す彼が憎たらしい。

「有り難うごさいます、奥様」
「あらやだ、お母さんでいいのよ?こんな娘しかいないけれどっ」
「とても頑張り屋で素敵な子ですよ」
「もう、そんなこというの貴方だけよ!じゃあ2人共、勉強頑張ってね」

ほんと、殴りたい。

「誰がとても頑張り屋で素敵だって?」
「褒めてあげたんじゃない。なにが不満なのよ」
「この猫被り。はげればいいのに」




bark