雨の音はもう聞こえない






真っ暗な部屋の中
夜の闇に響き続ける水が叩きつけられる音。
アタシはそんな様子を窓から覗き、それをカーテンで覆い隠した。

今日は随分と雨が強い。
窓を閉じて密室状態を作り上げても雨音は容易くそれをくぐり抜け、耳に強く飛び込び脳内を騒がせる。
今日は中々寝付けなさそうだ。

ベッドに横たえて目を閉じる。
何時もより遅くやってくる眠気に身を任せやっと眠りにつこうとしたときにそこに響くブザーの機械音。


「……もう、こんな時間に誰よ…」

眠気でぼんやりとした頭を抱えドアを開けると

「ギャリー、今日泊めてぇーっ」


そこには全身がずぶ濡れ状態の彼女、ナマエがいた。


「ちょ、ちょっ…」

「どうしたの?もしかして寝てた?」

嗚呼、もうなんて格好してるのよっ

口の開きが止まらないアタシを見て彼女は口だけはすまなさそうに謝って、可笑しなものを見たかのように笑っていたが
体が大きく振るえ、くしゃみを一つ吐き出した。

「ギャリー、中入れてくれない? 寒いんだけど…」

「あ、あぁ……ほら、入りなさい」

雨に濡れた彼女が着ているワイシャツは透けていて、目を合わせることができずにその姿は挙動不審。

大雑把で鈍感な彼女はそんなアタシに気付かず、ずかずかと自分の家に入っていった。
喜んでいいのやら悪いのやら…
まぁ自分の心中を語られずに済んだことにホッとし、すぐさま気付いて


「ちょ、床が濡れるじゃないっ
 止まりなさぁーいっ!!」

ギャリーの声が響いた。





「えへへ。ギャリーの服だぁーギャリーの匂いがする」

ずぶ濡れだった彼女を風が引かないようにお風呂に入らせ、着替えは適当なYシャツとズボンを用意したがどちらもダボダボだった。
いつも髪を上で纏めた彼女は髪を下ろした姿で、ギャリーの服に包まれて幸せそうにしている。

「ほら、髪乾かしてあげるからこっち来なさい。」

「はぁーい」

髪を乾かしながら2人が最後に会った日を考える。
彼女は今年から会社に入社して晴れて社会人となり、滅多に時間が合わなかったので久しぶりの2人の時間だった。
社会人になった彼女は大人というのだろうが、髪を下ろすと大人っぽさが解かれ
髪を乾かしている時にくすぐったそうにしている彼女はまだまだ子供っぽさが全開でとても可愛い。

「ギャリーはいいお嫁さんになるね」

「なに言ってんのよ」

彼女の頭を小突いたら、照れてるのー?とか言ってきて、こんな時は口を開くと変なことしか言わないんだから。
仕舞いにはギャリーってお母さんだよね、とか言い出す始末。
アタシはオネエであっても女じゃないの
お母さんにはアナタしかなれないでしょ。


「そんなこと言うお馬鹿な子にはアタシが直々にお勉強を教えてあげなくちゃかしら?」

「えー、ギャリーがー?なんの勉強ー?」

そうね、
まずは性の勉強かしら

アナタにはいずれアタシの子を産んでもらうし


そうして2人はベッドへと沈む


雨の音はもう聞こえない。



bark