『久しぶり、元気にしてるか?』
着信音に気づきポケギアを見ると見覚えの無い名前だった。 画面に照らされる名前に一瞬誰なのかと頭を悩ませているとふと昔一緒に遊んだ幼馴染を思い出し、慌てて電話を取る。数年ぶりに聞いた彼の声は前よりも幾分か低くなったようだ。私は先ほどの迷いを語られないようにさも覚えていましたかのような口ぶりで言葉を返した。
『久しぶりー、元気だよ。突然だね、どうしたの?』 『いや、別に。』 『なにそれwあ、聞いてよ。私今旅してるんだ。オタちゃんと一緒に。コンテストにも出てるんだからっ』 『オタちゃん?あぁ、あのオタチか。泣き虫なお前とビビリでいいコンビだったな』 『今ではもう立派なオオタチです。泣き虫でもビビリでもないしアンタが悪いんでしょ!なんで毎日アンタと飼い主に似て性悪なワニノコに引っ掻き回されなくちゃいけないのよ本当性格悪いわねアンタ』 『は?1匹でオロオロしてるから親切に遊んでやっただけだろ。そうかあいつオオタチになったのか』 「遊んだ?私のオタちゃんを事あるごとに脅かせたり転ばせたりしたやつが何をいうか」 『あいつが間抜けなだけだろ?泥ん中に頭から突っ込んだときは腹が痛くて死にそうだったわ』 『おのれぇ…』 『んであの泥まみれがコンテスト?ビリだろビリ。泥遊びしかできねぇんじゃねぇか?』 『はっ、残念ながら可愛さコンテストハイパーランクで優勝掻っ攫いましたが何か?節穴ぁ…』 『嘘だろ。』 『本当です〜っ。あーもう近くにPCがあったらその時の写真を送りつけてやるのに』 『んでそっちはどうなのよ。あのワニノコも進化してるんでしょ?』 『あぁ、オーダイルになった。さすが俺のポケモン。強いし俺に似てイケメン。』 『似てるのは性格の悪さだけでしょ。今度あったら十万ボルト食らわせる』 『あ?お前俺に勝てると思ってんの?俺に一度も勝てたこと無いくせに。』 『言っとくけど前とは違うんだからね。私だって今ではたくましく旅してるんだから』 『ほーう。まぁ俺のほうがトレーナー暦は長いけどな。ていうかお前一人で旅してんの?女だろ危なくないわけ?今どこいるんだよ』 ホウエン地方のキッサキシティてとこの近くの湖。雪が半端ない。オタちゃんのマフラーまじ天使。もう手放せない』 『おま、なんでそんなとこにいんだよ。風邪ひくぞ』 『チルがいるから大丈夫。』 『チル?』 『ホウエン地方にいるチルタリスって鳥ポケモン。ここまでその子で空飛んできてたんだけど余りにも先が吹雪で酷いからちょっと休憩中。チルの羽毛がふわっふわで全然寒くないから大丈夫』 『あー、あいつね。ていうか大丈夫って、お前なぁ・・・』 『あれ、チルタリス知ってるの?ジョウトにはいなかったと思うけど』 『はっ、もうジョウトはでてるっての』 『てことはアンタもやっぱ旅してたんだ。そっかーっ…』 『なんだよ』 『いや、私が旅に出たのってアンタの影響っていうか・・・まぁ色々大変だけどさ、結構楽しいよ。なんか世界が広がる感じで。ってのは一緒にいたときにアンタがトレーナー目指してていっつも言ってたことだけどさ、私もやりたくなっちゃったんだよね。なんか懐かしいなぁー』 「お前まで旅に出るとは思わなかったけどな』
『初めてアンタがポケモン貰って私に見せ付けてきてさ、私まだポケモン持てる年じゃないから横でいいなぁって眺めてることしかできなくて。』 『羨ましかっただろ』 『自慢ばっかでほんと最低。でも感謝してる。』 『は?』 『私が引越しするってなったとき、アンタに腕引っ張られて森まで連れて行かれた時のこと覚えてる?』 『お前泣きながら早く帰ろーとか泣きべそかいてたな。俺がポケモン持ってんだから大丈夫だって言ってんのに。』 『なにが大丈夫よ。まだポケモン貰って浅くて他の人とバトルだってすることだって無かったのにいきなり修行とか言い出して森の中ぐいぐい進んであっちこっちポケモンが出てアンタもワニノコも傷だらけだったじゃない。』 『仕方ねぇだろ炎タイプ持ってた訳じゃねぇし水タイプであそこまで行けたら上々だろ。』 『やっぱ無理してたんじゃん。』 『してねぇよ。ちょっと位きつい方がいいんだよ。修行だろ。』 『ボロボロだったよね、私達。』 『そうだったな』
『……』 『すまん。』 『いいよ。あの時私の為にポケモン捕まえようと連れ出してくれたんだよね、ありがとう。』 『はぁ?修行だって言ってんだろ』 『おかげでオタちゃんにも会えたし今の私がいる。言ったでしょ、感謝してるって。』 『……」 『ありがとう』 『あぁ。』 『お、素直になった。』 『あー調子狂うな。次会ったら覚悟しとけよ。バトルだ、バトル。』 『望むところよ。アンタなんかぎったぎたにしてあげるんだからっ』
『いったな?』
「 さぁ、バトルしようか 」
上空で何かが羽ばたく音が聞こえて上を見上げたら大きなリザードンが空を覆いつくしていた。瞬間響き渡る咆哮。その背中には前会ったときより背が伸びていて相変わらず性格が悪そうににやりと口角を上げながらこちらを見下ろす幼馴染の姿があった。
bark
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