俺には幼馴染がいる。 小さい頃から俺等はいつも一緒で、家も近くて3軒先のお隣さんだし幼稚園からずっと一緒のクラスにしかなったことがない腐れ縁な俺等は、2人でよく話したしよく遊んで、帰る方向も同じだから学校へ行くときも帰るときも一緒に帰るのが当たり前だった。 2人は幼馴染であり親友だった。 モデルになってもいつだって変わらない態度を取ってくれる幼馴染と一緒に居るのはなんだかとても癒されて、すごく居心地が良くていっつも一緒で。 中学に入ってそんな幼馴染が恋をした。 相手は俺の憧れでバスケを始めた切っ掛け、青峰っち。 放課後俺と青峰っちでバスケをしているところを付き添いたいという願いに幼馴染だから快く引き受けてから俺の中の何かが少しずつ変わっていった。 バスケをしている中、幼馴染が見ているのはいつも青峰であり俺のほうは眼中に無くて、こっちを見てもらいたくてどんなに頑張っても結局俺は負けて彼の引き立て役となってしまう。ああ苛々する。 帰り道だって話題はいつもアイツだ。 「青峰君って好きな人いるのかな」 「さぁ。付き合ってる人はいないんじゃないっスか」 「うーん、どうやったらOK貰えるかな」 「別に特別な事しなくても名前は自然体が一番っス。きっと上手くいくっスよ」 「えー、そうかなぁ〜」 なんだよそのにやけた顔。最近青峰っちと話せるようになったからって浮ついてさ。大体全部俺のお陰だろ。青峰っちと話すきっかけが出来たのも放課後のバスケについてこられるのも青峰っちとメルアドが交換できたのも、全部、全部俺のお陰だろ。なんで俺の方を見てくれないんだよ、なぁ、なんでなんだよ。もっと俺に感謝しろよ。なんなんだよ、むかつくむかつくむかつく。 そんな幼馴染が告白をして失恋した時は俺は大いに喜んだものだ。 珍しくついてこなかった青峰っちとのバスケの後、俺は教室へ足を運んだ。 日が沈んで辺りが暗くなってきた教室の中で電気もつけずに窓辺の席に腰掛けて窓から目を離さない幼馴染の姿を見つけた俺はその背中に哀愁が漂っているのを感じた。 失恋したのは知っていた。だってさっきまでその告白された本人といたのだからその雰囲気やらで大体の事は分かる。普段無い余所余所しさを見ても俺は気まずさなんて一向に感じなかったさ。むしろ顔がにやけるのを止めるので大変大変。俺は浮き上がってたんだ。ざまぁみろとさえ思ってた。青峰っちも、あのバカで勝手な幼馴染も。 なのに、なのに。 なんだ?この空気は。この体の重さは。 声が出せなかった。 2人して無言で、俺は時間が止まったように動けなくて。さっきまでの浮かれていた感情なんていつの間にか消えてなくなっていた。 「黄瀬君。」 「私ね、振られちゃった。」 幼馴染の呟く声が教室の中に響く。 その言葉に俺は喜ぶはずだったのに、何度もその言葉を期待したはずだったのに何故か喜べない。幼馴染の泣いて掠れた震える声が頭の中に入ってそれで俺の心は重くなる一方だ。 「ごめんね、応援してくれたのに」(いっつも相談に乗ってくれて協力してくれて)(ありがとう) そんな言葉今言わないで。そんな資格なんてないんだ。なんだか俺、どこかですごく間違えた感じがする。 いつからだっけ幼馴染の恋を素直に応援できなくなったのは。返事を適当にして聞き流していたのは。わざと青峰っちの嫌いなものを教えて嘘の情報を流したのは。 というかなんで俺はそんなにも幼馴染の失恋を願っていたんだ?俺の方を見てくれないから?こっちを見てもらいたい、何故? 幼馴染と青峰っちが一緒に居るところが目に付くようになって2人で楽しそうに会話してた時には苛々して邪魔して。寂しい、でもそれだけじゃない。あの隣がいつも俺であればいいのにと思ってた。小さい時からそこは俺の指定席であって一緒に居るのはいつも俺だったんだ。話すのも遊ぶのも一緒にご飯を食べて笑うのも全部全部俺のものなんだ。 あれ、なんだこの執着心。いつからこんなこと思うようになったんだ。まるで俺が幼馴染に××しているようじゃないか。いや、そんな可愛らしいものじゃない。これは支配欲だ。 「今度は私が黄瀬君の相談に乗るから、なんでも言ってね。」 やっと一瞬振り向いた彼女は泣いているのに笑ってて、俺が如何に悪い人間かを試すようで、俺は天使のその甘い誘惑に乗るんだ。 「それ、今でも良いっスか」 「え、?」 幼馴染の腕を強引に引き寄せ顔を近づけて貪る様なキスをする。 幼馴染は目を見開いて呆然としているけどそんなのお構いなしだった。 深く、深く、舌を絡ませ吸い付き彼女の身も心も吸い尽くすように。 そのうち彼女のほうが立っていられなくなって俺は彼女を窓際に誘導してさらに深いキスを続けた。吐息が大きくなり彼女の口から唾液が垂れてとても官能的で興奮しながら俺はすかさずそれを舐め取った。彼女の抵抗は無い。まさかさっきの言葉で真に受け取っているのだろうか。それとも彼女も満更でも…なんてあるわけないか。 「俺、名前の事が好きなんスよ」 「え、う、あ……っ」 彼女の怯えた表情が目に移る。とっても可愛い。その顔も表情も全部俺のモンなんだ。誰にも渡さない。 彼女の気持ち?そんなの知ったもんか。 彼女が今俺を好きじゃなくても、他の人を好きになろうがそんなの関係無い。 唯、名前が欲しい。 「俺と付き合ってくれるっスよね、名前」 有無を言わせない視線で彼女の瞳を貫いた。 まるで天使の唇を奪って汚して、俺はきっと悪魔なんだろうけど俺を悪魔にしたのは名前であって自業自得っスよね。別にどうだろうとそんなこと知らねぇよ。 壊れてるのかな、俺。あぁ、なんでもいいや。 兎に角名前が欲しい。 (もう恋なんて通り過ぎた) bark |