見上げた世界






リコちゃんはすごい。
スポーツジムの一人娘で相手の体格を見ただけですぐ身体能力とかが分かっちゃうし、頭も良くてチームのスケジュール管理だとか作戦だとかなんでも作れて監督とマネージャーを兼務している。

その点私はといえば、唯の普通の家庭でそんな凄い能力なんて何も無い。
マネージャーとしても、料理ができないリコちゃんに代わってドリンクを作ったり、あとは皆のタオルやユニフォームを洗濯したりとかそれくらい。


だからいつもリコちゃんが羨ましかった。
皆のためにできること。私じゃなくちゃできない何かが欲しかった。


練習が終わって皆がゾロゾロと帰る中、私はまだバスケのコートの中にいて練習後の後片付け。
転がっているボールを拾い集め、元に戻す。
そんなときにいつも皆がシュートしているゴールリングを見て、試しにシュートしてみた。が、入らない。
やけになって何本も投げてみるもリングに全く掠りもしない。届いてないのだ。

全く、自分の非力さに呆れる。
リコちゃんみたいに頭も良くなければ力があるわけでもない。
誰にでもできるようなことを唯やっているだけ。

ゴールリングがすごく遠く感じる。
皆ができてることが私にできなくて1人取り残されていくのがのが悔しさを通り越してすごく悲しかった。


「苗字?」

急に呼ばれて振り返ると、着替えを済ませた鉄平君が扉の前に居てこっちに来るところだった。

「練習してたのか?」

「うん、少しでも皆に近づきたくて…」

最近疎外感を感じることが多かった。
リコちゃんがバスケ部に入ってから皆今まで以上に頑張っていて練習にも気合が入っている。確実に皆成長している。
なのに私は前と何も変わっていない。やることはいつもと同じなのだ。
正直、私は此処に居る意味がないんじゃないかと思う。
私なんてバスケ部ができた当初から友達なじみのお手伝いとしていただけの延長線のようなもので別にいなくたっていいに決まってる。
だってリコちゃんだけで上手くやっていけるもの。

「なぁ、苗字」

ちょいちょいと手招きする鉄平君の傍に行くといきなり腰から持ち上げらてパニックになった。
ちょ、え、え?とあたふたしていると、いいから落ち着けとなだめられて、やっと周りが見れた。

「うわぁ…っ」

鉄平君に持ち上げられて見えた景色はいつも私が見ているそれより全然高くて、なんだか全然違う世界に見えた。
鉄平君はそのままゴールの傍まで連れて行き、私にほらと目配せをしてボールを投げやすい位置にしてくれる。

片手を上げるとリングに手が届きそうな位近くて、そこからえいっと持っていたボールを投げた。
ボールは見事、リングを通って下にストンと落ちる。
初めてボールがゴールに入ったのが嬉しくて喜んでいる私を見て鉄平君も笑った。

そんな中、いつも優しい表情を見せる鉄平君がふいに真顔になった。


俺はお前に助けられているよ。

俺だけじゃない、皆もそう思ってる。
だから自分がいなくなってもいいなんて思うな。


それはさっき私が思っていたことに対しての言葉で、
鉄平君には何もかもお見通しのようだった。

(うん、ごめん…)(おい、泣くなよ)(ありがとう)(ああ)

そんなやりとりをして体を下ろされてから、鉄平君にお礼を言ってそれで別れて、
その後やっぱりなんだか涙が出ちゃってひときしり泣いたあと後片付けを再開した。

私、皆の役に立ててるんだよね。
そう思ってまた皆をどうやってサポートしていこうか思案しながら帰る。
足取りは思いのほか軽くて、明日からまた頑張ろうと思えた。



bark