「好きです、私と付き合ってください」 そう言った口はまるで自分のものだと思えなくて これは普通に見ると告白と言うやつなのだろうが、そう呼ぶにはあまりにも抑揚が無く無感情な声で一切の愛情を感じさせなかった。 振られるはずだった。 そうとしか思わなかった。 だから予想外だった。 「いいッスよ」 ◇ 「えぇーOKもらったって〜っ?!!」 「………うん」 目の前にいる友達、これを作った元凶の1人が大きく声を上げた。 相手は黄瀬涼太。 運動神経優秀、バスケ強豪高海常のレギュラー。そしてモデルまでやっててファンクラブまである。 対して私はなんの取り柄も無い一般人。 運動なんてチーム競技なんかしたら空気だし、人から注目を集めるほどの美人でもない。勉強は中の下。 つまり大勢いるそこそこ女子の中の1人なのだ。 「まさかアンタがねぇ〜…」 そういって私を上から下まで見て、マジかぁ〜と信じられなさそうに呟いた。 私だって未だに信じられない。聞き間違いかと思ったくらいだ。 今まで大して目立たず過ごしてきた学校生活。寧ろ相手は私の事を知っていたのだろうか。ない、それはない。別のクラスで全く違う種類の人間だし接点なんてない。あるのは同じ学校の生徒というだけ。 「……で、アンタ。どうすんの?黄瀬君のこと。本当に好きなの?」 「……」 罰ゲームだった。 友達と集まってやった王様ゲームで運悪く当たってしまった私の罰ゲームの内容は『好きな人に告白する』というもので、別に大して好きな人が居るわけでもない私は不自然でない、そして振られる前提の人を選んだのだ。皆が憧れていて女子達が告白してことごとく振られている彼、黄瀬涼太を。 好きか、と言われれば答えはNOだ。元々振られるつもりで選んだのだから。 「まぁ折角だし少し付き合ってみれば?」 「え?」 「少し付き合ってやっぱり貴方とは気が合わないから〜って言って振ればいいじゃん。好きになれたら万々歳で。」 笑顔でなんて恐ろしいことをいうんだ彼女は。 「B組の苗字名前さんってここにいるっスか〜?」 突如廊下のほうから自分の名前が呼ばれて固まった。 後ろから女子のきゃーきゃー騒ぐ声も耳に入らない。 頭の中には私を呼ぶ黄瀬君の声がダイレクトで響いていたのだ。 「あぁ、いたいた。ちょっと借りるっスよ名前。」 そう言って目の前まで歩いてきた黄瀬君は私の手を取ってあろうことか私を教室から連れ出してしまった! 女子の騒ぎ声が一転、悲鳴となって、 後ろでいってらっしゃ〜いと手を振る友達が憎らしげに映った。 ◇ 連れ出されて体育館裏。あれ、私なんで此処に連れて来られたの。 体育館裏は体育館が大きくて校舎が隣り合っているということで日が此処まで当たらず薄暗い。此処まで連れてきた本人は私を連れてきたかと思うや何も話さず此方を向かず前で突っ立っていて顔が見えない。なんだろう、すごく不気味だった。 「き、黄瀬君、どうしたの…?」 こんな所まで連れてきて、と言おうとすると私の話を遮り、黄瀬君は漸く口を開いた。 「アンタは俺の事本当は好きでもなんでもないっスよね?」 その言葉に私は固まる。 そして今の黄瀬君は何時も皆の前で見せているようなヘラヘラとした軽い雰囲気じゃなくてギロリと此方を見て凍りつくような空気を周りに発していて、 ただ、怖い。そう思った。 「嗚呼、別に責めてるわけじゃないっスよ。ただステータスとか外見とか抜きで全く好きな素振りも見せず告白してくる奴ってのが珍しかったんで」 罰ゲーム、だったんでしょう? そう言われてドキリ、とする。 「はは、図星。そうっスよね。知ってたっスよ、最初っから。だから別に気にしなくてもいいんスよ。ただ、気の毒だなぁと思って」 相手を蔑んだように喋る、こんな冷たい黄瀬君しらない。本当に黄瀬君なの? それに気の毒ってどういうこと? 「アンタが俺を好きじゃないなら好都合なんス。近頃いい加減女子の奴らが群がってくるの、ウザイんスよね、俺の気も知らないで。だから俺等付き合ってる振りしてアンタには女子の奴らを相手してやって欲しいんスわ。まあ多少女子からはなんかされるでしょうけどまぁ罰ゲームだった訳なんだし、丁度良いんじゃないっスか?」 何それ、そんなことしたらちょっと行き過ぎた黄瀬君のファンクラブの人達に殺されてしまう。そんなの考えただけでも恐ろしい。 そんな私の気も知らず、それだけなんで、と黄瀬君は私を置いていってしまう。 去り際に、 「俺の気持ちも知らないでアンタが考え無しに告白するから悪いんスよ」 なんて聞こえた気がするけどそれはきっとおそらく唯の聞き間違いだ。 絶対、そうに決まってるんだ。 (人の気も知らないのはどっち) bark |