「な、なによ…アレっ」 海常VS桐皇戦、うちの桐皇が出るっていうから空いてる時間を縫って来て見れば 昔の同中で転校する前の半年間だけ一緒にいた黄瀬がいた。 なんで、どうして。アンタ海常入ってたんだ。 バスケットボールがどんどんと響く会場内の一角で久しぶりの再会となる彼から私は目が離せない。 『ぷぷー、まぁーた青峰君に負けちゃってるーだっさーい!青峰君に勝つなんて無理なんだから諦めれば良いのにー!』 『うるさいっス!絶対俺は青峰っちを越して名前っちも見返してやるっス!』 『無理だよ黄瀬君。青峰君は世界一強いんだから!』 『俺に勝てるのは俺だけだ』 『ひゅっー!だってよ黄瀬君!残念だったね』 『クッソーっ、絶対勝つっス!そしていつか見返してギャフンと言わせてやるっスー!』 『あはは、勝てるわけ無いのにーっ』 あの頃は黄瀬君がバスケ部に入って青峰君しょっちゅう1on1を頼んでいたけど勝てた試しがなかった。青峰君とは小さい頃から仲が良くていっつも傍でバスケをしているのを見てるし私自身彼が最強だと思っている。だから私は黄瀬君が青峰君に勝つことはないと思い込んでいたんだ。 なのに、今は... 青と黒のユニフォームが激しくコート内で動き回る。息を呑むまにボールが味方・敵・味方・敵と移り変わってボールが宙を浮いたと思えばすぐさまカットされ床へ叩きつけられる。攻守の移り変わりが速くて目が追いつかない。 こんな激しい戦い、見たことがない。 それに、 (黄瀬君が青峰君を圧倒してる…?) 何時の間に黄瀬君はあんなに強くなったんだろう。 なんだろう、今の黄瀬君は前と雰囲気もスタイルも全然違う。 (あれ、青峰君のだ…) 小さい頃から私が最強だと思っていた青峰君の姿が彼とダブって映る。 彼が青峰君のように素早い動きでゴール元へ入りシュートを出そうとする。 後ろでは青峰君が打たせるかよといったようにすごいスピードで追ってきている。 『きゃー、すごーいまた入ったー!青峰君サイコー!』 『おう』 『ちょっと名前っち、俺が負けてるんだから俺を応援してくれてもいいんじゃないっスか』 『負けてばっかの奴には興味なし!』 『ヒドっ!』 今まで彼の応援をしたことが無かった。 どうせ負けるんだからと。でも 「き…」 『俺、絶対勝つんスからね!』 「黄瀬君、頑張れーー!」 彼がジャンプする。 でも後ろから青峰君がぶつかって前に大きく揺れる。 ねぇ、終わっちゃうの、このまま終わっちゃうの? そう思っていたら黄瀬君が笑った。 その時、ボールを持っていた手が後ろに出されてボールは後ろに飛んでいったけど綺麗な軸を描いてまるで最初からこうなることが分かっていたかのようにストンとゴールに入った。 キャーーッ!! 観客の叫び声が鳴り響く。 私はさっきの出来事が夢のように思えて頭の中で何度も再生する。 (黄瀬君、青峰君に勝てるようになったんだね…) あの後青峰君が今までに無い動きをして、試合の結果としてはうちが勝って、黄瀬君のいる海常は負けてしまったけど私は黄瀬君が負けたとは思わなかった。 「きーせくんっ」 「……!名前っちスかっ?」 「うん、久し振り。元気にしてた?」 「勿論っス。そういや名前っちは青峰っちと同じ桐皇だったんスね。」 試合が終わって黄瀬君が外に1人でいるところを見て話しかける。 久し振りに喋る黄瀬君は前と何も変わらない。1年振り、だろうか。 中学2年の夏、私は両親の転勤の為転校することになってからずっと連絡を取ってなかった。 「行き成りいなくなるからすっげー吃驚したっス…」 「あはは、ゴメン。あの時はほら、ちょっと急だったからさ。」 小さい頃から遊んでいた青峰君とは家の電話も知ってたし、 よく顔を見せていた部活の皆には青峰君から伝えてもらった。 だから黄瀬君が知ったのもきっとその時だろう。 「あの時よりちょっと背縮んでないっスか?」 「黄瀬君が大きくなったの!」 再会した早々失礼な事を言うので中学の時にもやった必殺わき腹抓りをお見舞いしてやった。 「痛いっ、痛いっス!!」ざまぁみろ! 1年振りということで積もり積もっていた話をどんどん話していく。 笑ったり、苦笑したり、思い返してしみじみしたり。 ある程度話すと会話が止まった。 吹いた風が耳の傍で音を立てた。 「今日は格好悪いとこを見せちゃったスね…」 そう言って黄瀬君は眉を下げて困ったように笑うから私は思わずこう返していた。 「格好良かったよ!」 「……え?」 「いっつも青峰君に1on1で負けてたのに勝ってたじゃんか。それに前の時よりバスケに対する姿勢もすごかったし、こっちまで迫力が伝わってきた。かっこ悪くなんてないよ。すごかったよ、格好良かったよ!」 興奮気味でそう言うと黄瀬君は驚いた表情でぽかんとこっちを見た後、 表情を崩して嬉しそうに笑った。 「へへ…、名前っちからそんな言葉が聞けるなんて思わなかったっス。」 「ちょ、なにそれ。私だってすごいと思ったらすごいって…」 「やっと、名前っちを見返すことができたんスね。」 本当に嬉しそうに笑って、彼のこんな表情、私は見たことがなくて。 「な、何。まだそんなこと言ってたの」 「俺にとっては、あの頃青峰っちばかりを見ていた名前っちを見返すってのが勝つことと同じ位大事だったっスから」 「ば、ばからし…っ」 「名前」 「な、何行き成り…」 「俺と付き合ってくださいっス」 「は……?」 「俺名前っちの事好きで、だけどいっつも名前っちが見てるのは青峰っちで俺なんて入り込む余地がないってくらいいっつも一緒にいて。名前っちは俺が弱いからっていつも馬鹿にして青峰っちばかり応援してるし、無性に腹が立って… だから決めたんス。いつか青峰っちを越して名前っちに告白するって! お、俺と、付き合ってください!!」 なんだそれは。 つまり黄瀬君は私のことが好きで黒峰君に嫉妬していた、と。 それで黒峰君に勝ったら私に告白…って、えぇ?! 「だ、駄目っスか…?」 頭の中がフリーズしていつまで経っても答えない私に黄瀬君はまるでわんこのような目でこちらを見てくる。 「だ、駄目じゃないけど…」 「てことは付き合ってくれるっていうことっスか?!」 「……う、うん?」 「よっしゃあーーっ!!」 なんだか断れるに断れなくて成り行きでうんと言ってしまったけど別に嫌じゃなかったしいいかなって。 そしたら感動して勝利の雄たけびを上げた黄瀬君は私をすぐ抱き寄せて力一杯抱きしめた。 うぅ、苦しい……っ! でも黄瀬君の喜んでる表情を見たら止めさせるわけにもいかず、大人しく抱きしめられているしかないのだ。 その時私の頬に手が伸びて黄瀬君の顔が迫った。 「名前……」 え、これはまさか… 近づく顔。黄瀬君は目を閉じる。唇と唇が触れ合うまであと数センチ。 「ば、馬鹿ああぁーっ!!」 「ゴフッ!」 見事に決まった私のボディブロー。 黄瀬君はお腹を抱えて蹲っている。 「こんの馬鹿!変態!エロスケベ!」 「ご、ごめんっス!謝るから…あーっ!足蹴りするのはやめてーっ!」 「一回死んで人生やり直せ!」 「スミマセンでしたー!!」 その後ひときしり殴って気分もスッキリした。 横でモデルは顔が命なのにとか言ってるが気にしない。そんなもの知ったこっちゃない。 「うぅ、ヒドイっス…。青峰っちに1on1で勝てるようになったんだから少しくらいご褒美くれてもいいのに」 「結局試合では負けたんだし最後はアンタの負けじゃんか。途中で余裕ぶっこいて相手に情けなんてかけるからいけないの!しかも青峰君にかけるとかアンタ馬鹿?身の程を弁えろってーのっ!」 「え、なんかさっきと言ってることが」 「結局やっぱり青峰君が最強で格好良くて強いんだよね。黄瀬君なんてまだまだだよ」 「そんなぁー!酷いっスよー名前っちー!」 ボロボロになった状態の黄瀬を置いて先に歩く。 後ろから置いていかないでくださいっスーとか聞こえるけど気にせずに。 昔もこうやって私が前を歩いて黄瀬君が後ろから着いてきてたよね。 今はまだ私のほうが優位に立っていられるけどこれからはどうなんだろう。 もしかしたら黄瀬君が私の前に立って歩く日はそう遠くないかもしれない。 早く私が文句を付けられない位強くて格好良くなって、私をリードしてね。 まぁ青峰君に勝つのは難しいけど♪ bark |