投げられた絵の具 (美術大ギャリー)






彼との出会いは大学の頃、
私が赤点を取って補修をしているときに知り合った。

彼は絵を描いていて、それは別に補修とかじゃなくて彼が唯単に暇だったりとかサークルだとか何かで偶然そこにいたと思うんだけど、
その彼が、補修課題をしている水彩に真剣に取り組む私の横を通り過ぎて覗き込み、私の絵の下手さに彼が噴出したところから始まったんだ。
見ず知らずの人に行き成り笑われて我慢なんてできない。
勿論口が出た。
そして手も出た。

元々イラスト専門でこんな水彩だとか嫌いなんだよコンチクショーっ!とやけくそになって手に持っていた絵の具を彼に投げつけて
「ちょ、やめなさいよっ」とか聞こえたけどお構いなしに投げつける。
日頃の鬱憤が溜まってたんだ。
なんでわざわざ紙に絵の具で書かなくちゃいけないんだ。
時代はパソコンでしょ、間違えたら取り返しがつかないじゃないかっ

そうして投げ続けていたらグシャっと音が聞こえて、
音の先を見ると誰かの書きかけであろうキャンバスに投げつけた青色の絵の具がベッチャリと付いていた。

やばい、
急激に頭が冷えていった
どうしよう、どうしよう、どうしよう。

さっきの男は止んだ絵の具の嵐に顔を上げ
真っ青な顔をした私に気づいたようだ。
視線の先を辿るとその理由を理解した彼があぁ、と呟いて

「あれなら大丈夫よ。」

「なっ、どこをどう見たら大丈夫っていうのよ…っ」

どう見ても修正は不可能な位見事に絵の具がぶちまけられている。
こんな時パソコンだったら戻るの一つボタンで綺麗に消してくれるのに!
きっと明日登校して授業が始まったら誰かが声を上げて言うんだ。
今日補修で登校してるのは私しかいない。
授業中に犯人探しとかなって、すぐバレちゃうよっ嗚呼どうしよう!

頭の中は既に声と声が絶え間なく行き交っててパンク状態。

「あれなら失敗作だからもういいの」

うん?

「ま、まさかあの絵は貴方様の…」

「そうよ」

ぎゃーっ!
ごめんなさい、ごめんなさいっ

すぐさま向き直って頭をペコペコと下げる。
まるでミスをした部下が上司にするあれで、
行き成り態度が変わったわね、とか相手がちょっとびびっている。


その後先生がすぐ来て部屋に散らかった絵の具の光景を見て怒られた。
あのキャンバスを描いた彼も上級生なんだから止めろとか、とばっちりで一緒に説教をくらった。

今2人はバケツとモップを持って美術室の掃除中だ。
そしてお互い無言である。
先生から彼の説教で聞いたキーワードに上級生だとか入っていて
自分はなんという相手に喧嘩を売ってしまったのだろうと思った。
さっきまでの勢いはどこへやら、何も言えずに黙々と過ぎる無言が痛い。

そして彼から言葉が掛かった。

「アンタ、どこの学科なの?」

「は、はいっアニメーション学科、2年のナマエですっ!」

早速目を付けられたっ、しかも余計なことまで口走ってしまったっ

「ふぅん、アタシはギャリー、芸術学科の4年よ」

よろしくね、と言われるも頭が?状態で状況が理解できない。
何故この人はこんなに友好的なんだ。

「あの、怒ってないんですか?」

絵を汚した挙句に一緒に怒られて掃除までさせられて、

「別に怒ってないわよ」

むしろ久々に面白いものが見れたわ。というギャリーさん
なんでそうなったのか理解不能だ。



「ねぇ、ナマエ」

「はいッ!」

「アタシ最近スランプ気味でね、刺激が足りなくて困ってたの」

「はい、えっ…とギャリーさん?」

「アタシと付き合ってくれない?」

「えぇっ?!」


(イキナリの告白?!)
(アンタといるとなんかネタが出てきそうな気がするのよね)
(あ、そういう…)
(あら、何だと思ったの?)






bark