黒に染まる /骸 (RE)










あの人は私を置いていった。
それは仕方のない事。

あの人は置いていった。
凪 ―― クローム髑髏という存在を。


私と髑髏の2人で行ったお買い物。今はその帰り。
私の前をひょこひょこと歩いている髑髏に目を向ける。
後ろの跳ねた髪。
いつだって放さない三叉槍。
彼に貰った新しい名前。
後姿が彼に似ていて(髪型のせいかも知れないけど)心が痛くなった。





いつだったか、髑髏が話してくれた。
「 骸様は私を必要としてくれたの。今は眼帯で隠れているけど、この右目も
 この内臓も、骸様が作ってくれたの。
 初めて私を必要としてくれた骸様。私、骸様の役に立ちたいの。
 骸様は私の大事な人 ―――。」
聞きたくない、聞きたくない。
彼に必要とされているのは貴方の躯だけ!と大きな声で叫びたかった。
でも、もしそうではなかったとしたら?
考えるだけでも恐ろしい。


「愛していますよ。」

復讐者(ヴェンディチェ)に3人が連れて行かれる前、骸は私にそう囁いた。
あれは嘘だったの?それとももう忘れてしまった?
私はこんなにも強く貴方を愛してるのに!
犬や千種みたいに戦闘能力もなければ、骸みたいに特殊能力も無い。
そんな私が彼らに遭ってしまったことが驚きだ。
なんでだっけ、あぁ、そうそう、転校初日からの熱烈な告白がきっかけだった。
前は笑えただろうけど、今なんて全然、笑えない。
ウザさに流してた話。今となってはちゃんと相手すればよかった。なんて、
もう遅い。
彼は行ってしまった。帰ってもこない。
そう、帰ってこないのだ。犬も千種も帰ってきているのに。





「名前、どうしたの?」

ハッと、意識が現実へ引き戻された。
目の前に髑髏が立っていて、こちらを覗き込んでいた。
いつの間にか足が止まっていて、顔だけお辞儀するように下がっていた。
「 ん、何でもないよ、髑髏。」
顔を上げて 偽りの笑顔をみせる。
「 よかった。」
と、ホッとした様子で、帰り道の方へとくるり、と体を向けて歩いていく彼女に
私は殺意を覚えた。
なにが?、なにがよかったの?
あなたが私に関心を示しているのは、
骸が気にかけて欲しいといったからでしょう?!

どす黒い感情が私を呑み込んでいく。
骸の半身、
骸の意識を感じられる彼女。
骸との繋がり、一つ一つが憎く感じられた。

かすかに残った正常な意識が 彼女は心配してくれただけよ! と叫ぶ。
そんな意識も、私のどす黒い感情は お前の醜さに同情しているのだと変換する。
黒が私を呑み込んだ。







まる
(嗚呼、何故あの子は良くて私は駄目なの?)
    (壊してしまいたい。彼女という存在を!)
             (そしたら貴方は怒るかしら?)




bark