ブラックスペル第3アフェランド隊の溜まり場となっているメローネ基地の1室。 室内は薄暗く、あちこちに酒瓶が転がっていて、バーもあればビリヤード台もある。こういう所をプールバー、といっただろうか。 その1室はやけに静かだった。 いつもは人が集まっているものの、隊のほとんどは出払っていて、今は二人の男と女がいるだけ。 男はビリヤード台の前でキューを構えていた。 女つまり私、はソファーの隅に座り、それを眺めていた。 男が球を撞く。室内に人が少ないため、球と球がぶつかる音が吸収されずに耳にリアルタイムで届く。 ここからは離れて見えないが、彼の撞いた球はポケットに全部入ることができなかったのだろうと、さっきより眉を顰めた彼の顔から分かる。 「一人でやって楽しいの?」 静かな室内に女の声が響いた。 「お前もやるか?」 「遠慮しておくわ。」 視点を私に向けることなく言う彼に、私はすぐに拒否した。 別にビリヤードができないわけじゃない。 まぁ、彼と勝負したところで結果は見えているが。 (誘うのなら相手の目を見て言うことね。 ) 自分の方を見ない彼に苛立ちが募る。 我ながらくだらない。 苛立ちを消すようにソファーに深く身を沈めた。 まぁ、分かっていたといえば分かっていた。 だけど、ずっとお互い無言で相手を見ない。いや、私は見ている。最初に声を掛けたのも私だ。 なにがそこまで彼を惹きつけるのか。 ビリヤードに嫉妬―― なんて、馬鹿馬鹿しいにも程がある。人でもない。 でもいつかそうなってしまいそうな自分に、やれやれ、とため息が出る。 ソファーに染み込んだアルコールの匂い。 もし彼と私の関係を例えるのなら、アルコールとその依存者。 空気感染する性質の悪いアルコールだ。 彼との関わりなんて同じ隊にいること以外無いのだから。 いつから彼の虜になってしまったのだろう アルコール中毒 (彼という名の、)(本当、厄介ね。) bark |