忘却



“さぁ、お披露目だ ”

人形がそう言うのと同時に開かなかった扉は開き、
人形はここでお別れだよと言い部屋の中に先に入った人形は他の人形達に紛れ、姿を消した。

部屋の真ん中にギャリーを見つけた。
扉が開いた音で誰かが入ってきたことが分かるはずなのに彼は振り向かない。
後姿で顔が見えない彼に私は不安になって彼の名前を呼んだ。

「ギャリー、?」

「………」

やっとこちらを振り返ったギャリーと目が合ったけれど口を開かない。
じっと見つめあう中、彼の口が開いたかと思えば、そこから出されたのは衝撃の一言だった。


「アンタ、誰…?」

それはいつもより低いテノールボイスで、彼のまるで男のような振る舞いに固まる。
でもそれ以上に心に突き刺さったのは、

彼は何て言った?
私が、誰…?
もしかして

わすれてしまった?


「ちょ、どうしたんだよ…」

今まで聞いてた彼の声との差に私はもはや目の前の人物は本当にギャリーなのかとすら疑ってしまう。
此処に入ったギャリーは1人だけで彼がギャリーなのは明白だ。
でも私にはどうしても彼が偽者にしか見えなくて、自分が知らないギャリーを認めることが中々できない。
そんな反応しない私の目の前に出してきた彼の手を思わず払ってしまった。

(これが私の望んでいた彼?)
ちがう、ちがう…

「……思い出して」

「え?」

「思い出して、思い出してよギャリーっ!」

彼の胸倉を掴んで揺さぶる。

「……ごめん」

目を伏せて静かに謝るギャリーの言葉は私の胸を抉る様だった。
どうしてこうなってしまうと予想できなかったんだろう。
あの人形の面した悪魔は記憶を消すとは言っても重要な部分だけとは言わなかったのに私はその言葉に浮かれて、

だから簡単に信じてはいけなかったのに。





「落ち着いた?」

「………」

暫くたって私は掴んでいた胸倉からゆっくり手を離した。
何の事情も知らないはずの彼は私を落ち着かせるように優しげな声で、
やっと彼が私の知っているギャリーなのだと分かった気がする。

「……ごめんなさい」

「平気」

次に伸ばされた手はちゃんと受けることができた。
これでいいと思ったわけではないけれど。

「ごめん、俺ここまでの記憶が混乱してて」

「…うん。じゃあこれから説明するね…」

今までの事を。

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テーマ「人外ファンタジー」
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