変わってしまった世界
さて、と
「じゃあ私ここから入って作品集がある部屋に行くから
私が入った後本棚を戻してくれる?」
了解しました。と
右側にある本棚を動かし一礼した無個性の男に
ありがとう、とお礼を言う。
本棚を動かした所の壁にはそれにちょうど隠される位の穴が開いていた。
私は床に手をつき、四つん這いになりその穴を潜る。
出た場所から前にある扉を開ける。
こっちから来る人なんていないとは思うけれど用心にこしたことはないわよね。
内側から鍵を閉め、私は先に進んだ。
「ここ、かな」
木の部屋の扉をあけ、聞き耳の絵画のほうに行く。
「ゲルテナ作品集ゲルテナ作品集…
あった 」
私はゲルテナ作品集(下)を抜き出し、中をパラパラと捲る。
最後のページに紹介文とともに黄色い薔薇に囲まれて立つ少女が載っていた
メアリー。
(こんなにも、人に近いのにね ―…)
それでも人間じゃない。
彼女が持っている薔薇は偽者にすぎず、
ここから出ることはできない。
この箱庭に閉じこまれた人形。
私は始めてメアリーと会ったことを思い出す。
そういえば、あの時私はメアリーに出会ってすぐ襲われて薔薇を盗られかけたんだっけ。
少し、可哀想だなと思うときもある。
でも、私貴女に薔薇をあげて外の世界に行かせることなんてしない。
だって私は親から逃げて今は孤児院に預けられている身。
メアリーが私と入れ変わってもそれはきっとメアリーが望んだものは手に入らない。
それに結局一人ぼっちになるのだ。
それならここで二人で一緒に遊んで過ごしたほうがよっぽど良い。
だからメアリーは私から薔薇を奪うのを諦める代わりに
?ここにずっといる?という条件で私たちは友達になった。
ここにいる絵画達にも最初は襲われそうになったがメアリーが止めて
私を紹介してくれたので皆と友達になることもできた。
メアリーには感謝している。
(でももう2人きりじゃない)
メアリーは外に出たいと言っていた。
誰かと入れ替わり今度こそここから出ようとするだろう。
元の世界に帰りたくない私の薔薇をメアリーは奪って皆で帰ってしまうのかもしれない。
けれど、他の人を知ってしまったメアリーならもしかしたら私とは違う未来を辿ってくれるのかもしれない。
(でも ― )
今度は私が1人ぼっちだ。
(そんなの嫌、絶対―
私はここの皆を帰らせない)
「永遠にここにいろ」
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