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 イロハ 3

ー アヤって変だね。



高1のとき、初対面のあいつに言われた。



十数年しか生きていない自分が言うのもなんだけど、人生はずっと楽しかった。

家族の仲も悪くないし、親の理解はあるほうだと思っていたし、お金がある分、いろいろな希望を叶えてもらった。

恵まれてた。



だけど、父さんの母校に行きたいという希望だけはいい顔をされなかった。



父さんが高3のとき生徒会長を務めたという中高一貫校。そこに通いたいと思って、中学受験を希望したら、「他の学校も考えてみるといいよ」と少し困った顔で言われた。


俺は特別頭がいいわけではないから、偏差値の高い父さんの母校では不安なのだろう。


そう思って小学生の俺は勉強を頑張るようになった。


無事入学して、友だちもたくさんできて、中学の3年間すごく楽しくて。高校からは、希望制の寮に入ってみたりして、毎日が修学旅行みたいだったら楽しいだろうなんて考えたりして。


そこで会ったのが、カナメだった。

高校から入学してきたカナメも寮に入って、俺たちは同室になった。

カナメは色が白くて、切れ長な目が特徴的で。だから最初はちょっと、冷たく見えたのを覚えている。



「城崎、アヤ?」
「えっ」



入学式でいきなり名前を呼ばれて、戸惑った。

席順表を見て話しかけてきたらしい。いつもみたいに「女子みたいな名前だね」とか言われるかと思ったけど、「ふうん」とカナメは別に興味もなさそうに他の人の名前を見ていた。



「君は、どうしてこの学校に入ってきたの?」


なんとなく、聞いてみたかったから聞いてみた。



「親に言われたから」
「何それ」
「アヤだって一緒でしょ」
「いや、俺は…」
「"俺は"、なに?」
「…何でもない」
「ふうん、アヤって変だね」


カナメは、思ったことをすぐに口に出すタイプのようだった。

理事長の息子という俺にたいして、「親に言われたからこの学校を選んだ」なんて言う生徒はそうそういない。

校風に惹かれて、とか、伝統がすごいし、とか、それらしいことを言う。



人生は楽しかった。

けれどどこかで、"城崎文"という名札がついていなくても俺を見てくれる人はいるのだろうかという思いもあったから、

カナメみたいに真っ直ぐと言葉をぶつけてくる存在は新鮮で、そして安心するものだった。




安心して初めて、自分が不安だったことを知った。




カナメと出会って、初めて知ることが増えていった。




「アヤさん、なんか楽しそうですね」
「そうかも」



父の秘書である三上にそう言われて、確かに最近楽しいや、と思った。



「クラスにさ、なんかすごい失礼なやつがいるんだよね」
「失礼なのに楽しいんですか?」
「なんだか新鮮で」
「そうですか、それはよかったです。ところで勉強のほうは…」
「三上はそれが聞きたかったんでしょ」
「そんなことないです失礼な!私はアヤさんと話したかっただけです!」
「なにそれ、きもちわるっ」
「ひ、ひどいですよ!」
「今のとこ特に問題はないよ、次のテストも一位目指して頑張る」


アヤさんらしくがんばってくださいね、と三上は言った。

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