▼ da capo 5
カズヤに、次の休みに街にでも行こうと言ったら呆れられた。
一瞬だけ、すごく嬉しそうな顔をさせてしまった。だけどその理由を問われて素直に答えれば、「やっぱりカナメさんですか」と残念そうにつぶやいた。
…
「で?これからどこ行くんですか?」
「んー…用事は終わったしね…」
「え、便せん買っただけで?終わり?」
「タクミに手紙書く用。いっぱい」
「ふーん…」
気まずそうな顔をするカズヤに、特になんのフォローも入れない。
「じゃあそろそろ寮戻ります?」
「えーお茶くらいしようよ、おごるし」
「べつにいいですけど…」
言い淀むカズヤ。この不毛な類の現実逃避に彼を巻き込んでも、何も変わらない。そんなことはわかっていた。
少し先に喫茶店を見つけて、歩き始める。
「…こんなカズヤのこと連れ回したら、怒られちゃうかな。カズヤの恋人に」
「…それはないです。あいつ、俺にそんな興味ないですよ」
「そうなの」
「来年度から、交換留学行くみたいで。それこの前聞かされて。何なんだろう、俺って、何なんですかね」
うつむくその横顔は、ものすごく深刻そうで。カズヤもそうやって悩むことがあるんだなあと失礼なことを思った。
「…そんなの、聞いてみないとわかんないよ」
「…」
「みんな、自信なんて、なくて。それでも、進むんだ。信じたほうが道で、それが、前で。」
「…」
「…って、タクミが教えてくれたんだけどさ」
ただの受け売り。でも、俺の心に響いたその言葉は、カズヤの"前"も照らしてくれる気がする。
「た…橋本って、不思議なやつですよね」
「んー?」
「人に優しくて、なんか、弱そうに見えることもあるんだけど、実は誰よりも強く進んでる、みたいな…」
「あぁ…」
そうだよ。あの学園に転校してすぐ、園田から守ってあげようとしたことを思い出す。
でも今考えると、そんな必要はなかった。
あの子は自分で自分の道を決められる。きっとこれからもそうなのだろう。
「元気かなあ…タクミ…」
「その遠い目やめてください、ほら行きますよ」
自分で立ち止まったくせに、カズヤはずんずんと歩き始めた。待って、とそれを追いかける形で歩き始める。そのときだった。
「ふみくん!!?」
そう呼ぶのは、世界でただひとり。
「タクミ…」
振り返ると、そこには私服姿のタクミがいた。その隣には、タクミのクラスメイト。前に、一緒に校内を歩いているのを見たことがある。
「げ、一哉…」
カズヤの姿に気づいたタクミは、一瞬ものすごくめんどくさそうな顔をした。けれど、そんなのは今の俺にはささいなことに思えてしまって、
「タクミ!!!!」
思わず駆け出して、この腕にタクミを閉じ込めた。
「ちょっ!!!園田会長に殺される!特に僕が殺される!!!離れて!!!」というクラスメイト(後から、野村家の子だと知った)に引きはがされて。
園田に悪いことしちゃったけれど、それくらい限界を感じていたら俺の心は、匠と会えたことで少しだけ軽くなった気がした。
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