▼ da capo 3
ー アヤ。
寮の部屋を開けた。何度も何度も頭の中でこのドアを開けていたから、まるでそのうちの1回みたいになんともなかった。
ばたん、と静かな音でドアが閉まる。
3年近く、あいつと同室で。俺がこの部屋にいなかったのは、ここ3ヶ月だけで。
けれど出会ってから、こんなに離れていたのははじめてのことで、振り返ってみると3ヶ月がものすごく長く感じる。
と同時に、案外あっという間でもあった。
「いろいろあったから、かな」
鏡の前に立つと、きらきらと光る金色の髪が目に入る。タクミや咲月が褒めてくれた髪色。
あいつはなんて言うかなあ。
俺はなんて言うだろう。
どんな顔で?
「……タクミに手紙書こ」
最後の手紙は、俺の番だった。タクミから返事の手紙はもらっていないけれど、直接言葉をもらったから、また書いてもいいよね。いいよね?
自分の部屋に入り、ペンをとる。
「タクミへ」
学園についたよ、と書き始めて、伝えたいことはたくさんあるけど伝わるように書くのは難しいなと思った。
それはきっと、伝えてこなかった、から。
コン、コン、
「、」
俺の部屋のドアを、遠慮がちに叩く音に振り返る。
だれ、と考えるまでもない。
そのドアの前に立てるのは、二人部屋の鍵を持っている人しかいないんだ。それはつまり。
「アヤ」
ー アヤ。
その声は、俺の頭の中でリフレインしていた声たちのどれとも違っていた。
「聞こえる?」
「、」
もう授業は終わったんだろうか。
生徒会の集まりはなかったんだろうか。
俺が帰ってきたこと誰かに聞いたんだろうか。
怒っていないんだろうか。
黙って学園を去ったこと、ずっと連絡を返さなかったこと、
あいつは、カナメは、どう思っているんだろうか。
「開けるね」
俺が返事をする前に、カナメはドアを開けた。たった3ヶ月。たった3ヶ月だから、なんてことはない。
「おかえり」
カナメは、少しだけ眉を下げて笑っていた。俺も笑ったつもりだけれど、どんな顔になっているかはわからない。
「、ただいま」
声が、少しだけ掠れた。
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