にせものamoroso。 | ナノ

 da capo 2

「アヤさん…!」





車を降りると、カズヤが門の前で待っていた。俺の姿を見つけてすぐに、駆け寄ってくる。




「なんでここにいんの」
「今日こっちに戻ってくるって聞いて…」
「誰から」
「三上さんですけど…」




車を出そうとしている三上のほうを振り返ると、聞いていたのかいないのか、「文さん、ではまたあとで」なんて普通に言われた。







「で、何か用?」
「いや、ただ心配で、」
「会いたかったから、くらい言えないの?」
「あ、会いたかったです、」
「ばかじゃん」






俺が笑うと、カズヤも少しだけ笑った。






「ていうか今授業中でしょ?戻りなよ」
「…」
「そんな顔したってダメだよ」
「…アヤさんは部屋に戻るんですか?」
「あー、そういえば父さんに頼んで一人部屋にうつしてもらおうと思ってるんだよね。来る?」
「行きます!」
「ばか、ウソだよ」
「〜!」




一人部屋にうつりたいのはほんと。さすがに同じ部屋に戻るのは気まずくて、でも正直に父さんに言ってみたら、「特別扱いはしないよ」と笑われた。








カズヤの恨めしそうな目を無視して、カバンの中を漁った。

持って行ったものも、持って返ってきたものもほとんどないけれど、タクミからもらった手紙だけは1通のこらずカバンにいれてきた。







「ねー見て、タクミからの手紙」
「わ、どうしたんですかこんなに」
「文通してたんだよねー」






いや、これからもしていいんだっけ、文通。園田が許してくれたっけ。




べつにメールもできるけど。電話もできるけど。この綺麗な字で俺だけのために書かれた文章を読むのはとても幸せな気持ちになることがわかったから、もう手放せない。






「あいつ、ほんと字うまいですよね」
「ね。人柄でるよね、字って。カズヤのはきたない」
「それどういう意味ですか?」
「ふふ、そーいう意味。じゃあ俺、部屋に戻るから」
「…はい」





まだ何か言いたそうなカズヤを置いて、俺は部屋へと向かった。







− アヤ。






もう、あの声は聞こえなくなっていた。



それはきっと俺の細胞が死んだからで、久しぶりに学園に戻った今、考えることもあいつのことではなくなっていて。



思ったよりもすぐ元通りの生活に戻れそうな自分に、内心驚いたけれど同時にとても安心もした。







ー アヤ。







今ならもう、前とおんなじように話せるような気がした。同室者、として。生徒会の、仲間として。


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