にせものamoroso。 | ナノ

 「未定」 2

結局、俺は一定期間の謹慎になった。退学になると思っていたけれど、理事長の判断で公にもならなかった。

タクミへの配慮だと理事長は言った。でもきっと、俺の家との関係性からして。事実を公開することができないというのもあった気がする。



一夜明けて、俺はタクミに手紙を書くことにした。最後の手紙。謹慎が明けたら、音楽室の机に貼りに行こう。



そんなとき、インターフォンが鳴った。



「城崎くん」
「、理事長」
「前の学校の子が、君を訪ねて来ているのだけれど。どうする?会うかい」
「…え」



前の学校。誰?教師?

いや、"学校の子"と理事長は言った。つまりは、生徒。



わざわざこんなところまで来るような友だちなんて、いたっけ。

ファンクラブは解散した。

生徒会の、誰か…?




もしかして。




「会い、ます」




玄関のロックを開けると、理事長は"私はこれで失礼するね"と言って去った。



理事長の後ろから、ゆらりと現れたのは。



「おまえ…」
「城崎さん、」
「なんで…」




ー ここでよくあるドラマだったらさ。




「なんで、おまえなの」
「あの、」
「帰って」
「でも、」
「、帰れ!」



生徒会1年のカズヤ。タクミの友だち。過去、タクミの気持ちを利用して傷つけた、とそう言っていた。



「何でおまえがここにいるの」
「城崎さんに、会いに…それと橋本に、謝ってきました…」
「…へえ。なんて謝ったの?利用してごめんって?あのとき自分だけ幸せになってごめんって?俺のこと覚えてる?まさか忘れてないよねって?すげーなおまえ」
「ちが、」
「ちがくねえよ」




全然違くない。タクミのことをさらに傷つけるだけって、何でわからないんだろう。

…俺が言える立場じゃないけれど。



カズヤは俺の部屋にずかずかと入り込んで来た。カズヤと俺は同じくらいの身長だから、目線が同じで。カズヤは俺の目をじっと見る。



「、とにかく、城崎さん、戻って来てください」
「なんで?なんのために?」



そうは言ったけど、問題を起こしたことを知ったら父さんは、自分の学園に俺のことを戻すだろう。

監視しておいたほうが安心だから。父さんはそういう人だ。




「みんな、心配して…」
「"みんな"って?」
「カナメさん、とか…」
「…じゃあ、なんでおまえなの」
「へ」
「よくあるドラマだったらさ。今ここにいるのは、カナメなんじゃない?ふつう」
「…」



カズヤは何も言えないみたいで、ぐ、と言葉につまった。ねえカズヤ、それが答えでしょう。



「…なんてね。あとしばらくしたら、戻るよ」
「えっ」
「最初から、そんなに長くいるつもりもなかったしね」
「そう、ですか…」
「ね、ひとつお願いがあるんだけど」
「な、」




カズヤの言葉を遮って、その下唇に噛みついた。



驚いたカズヤが目を見開いて、その隙を逃さないようにするりと舌をいれる。



「ふ、」
「ちょ、しろさきさ、」
「"アヤ"って呼んでよ」
「、」
「ね、カズヤ…」



ー アヤ。



俺は目を閉じて、キスをどんどん深くしていった。

だからカズヤの表情はわからないけれど、カズヤが俺の腰に手をまわしたから、少なくとも拒絶はされていないらしい。



「ね、カズヤ、」
「アヤさん、」
「あ、」



腰をするりとなでられて、びくりと震えてしまう身体をおさえられない。

カズヤは俺を壁まで追いやって、俺の脚の間に膝をいれてきた。


「ん…」
「アヤさん、可愛い…」
「うるさ…」


ちゅ、と音をたてて唇が離れる。けれどそのまま至近距離で俺を見つめるその瞳は、なんだか熱がこもっているようで。



「ちゃんとがっこ戻るからさ」
「、はい」
「付き合ってるふりしてよ、俺と」
「え…」
「じゃないと、行かない」
「…でも俺、リンと付き合ってて」
「あ。そういえばそうだった。ごめん。じゃー他の誰かに頼む」
「、その誰かともこーいうことするんですか」
「さあ…」


そこまで考えてない。考えてないけれど。


「泣かないで、アヤさん、」


カズヤは俺の目を片手で覆い、そのまままた、深く口付けた。



『タクミへ

 これが、最後の手紙になると思う。

 あんなことをして、本当にごめん。
 勝手に焦って、タクミのこと巻き込んで、
 ものすごく、傷つけた。

 俺も、タクミとの文通楽しかったよ。
 タクミのピアノが好きだったのも本当。
 俺、みんなが求める"城崎文"になれなくて
 前の学校から逃げ出したくて、
 その逃げ先にこの学校を選んだのは、
 タクミがいたからで。

 けど、信じてもらえないかもしれないね。
 それは自分の行動が原因だから、
 仕方ないと思う。本当にごめん。

 何日かしたら、俺は前の学校に戻るよ。

 本当は会って謝るべきだと思うけれど、
 タクミを傷つけた俺にその資格はないから
 手紙で伝えること、許してほしい。

 タクミ、ごめんね。

 城崎文』


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