にせものamoroso。 | ナノ

 イロハ 8

「解散?」


突然、ファンクラブが解散すると告げられた。

2年のとき突然作られたものだし、自分が望んだものではないし。

別になくなっても困ることはないけれど、なんだか腑に落ちないものはあった。


「どうして、って聞いてもいいものなのかな」
「いや、その…みんな、受験勉強とか、忙しくなるだろうし…」
「ふうん」


ファンクラブってそんなに活動してたっけ。3年ばっかりだったっけ。まあ、本人たちがそう言うなら、それでいいか。



「わかった、今までありがとう」



俺がそういうと、あからさまにほっとした顔で「こちらこそありがとうございました」と言われた。



重い足を引きずって、寮の部屋に向かった。

早く息が吸いたい。



「好きです」






中庭を通ったとき、そんな声が聞こえた。




告白の覗き見なんて悪趣味なこと、するもんじゃないっていつもならすぐに通りすぎるけど、



「君ってアヤのファンクラブの子じゃないの?」


っていう声が、今まさに求めているものそのものだったから、立ち止まってしまった。

でもその姿は、死角に立っているのか見えなかった。


「それは…、城崎さんはかっこいいし、頭もよくて、城崎家だから会長最有力候補だし、それで入ったけど、でも好きってわけじゃなくて…。」
「ふうん」
「それに、城崎さんのファンクラブは解散しましたよ。やっぱり、"副会長"は魅力が落ちるって抜けた人が多くって。
 よく考えたら、カナメさんのほうが会長に向いてるし」
「そうだろうね」
「ですよね?城崎さんは頭いいけど、おもしろみがないっていうか…でも城崎家なのに生徒会長になれなかったなんて可哀想だって、みんなと話してたんです。僕だったら学校やめちゃうかも」





俺が聞いたのはそこまで。勝手に動き出した足に任せていたら、寮についた。


必要なものをボストンバッグにつめて、寮を出た。


夏休みまであと数日。休んだって大きな影響はない。テストもない。


こんなときまでテストの心配をする自分は滑稽だなと少しだけ笑えた。





みんな、あんな風に思っていたんだな。

カナメも、かげで俺のこと嗤ってた。



その事実に、足元からぐらぐらしてしまってしょうがなかった。





外に出ると、夏の日差しでキラキラした街並みが目に入った。たしかに勉強ばっかしてたし、自分でもつまんないやつだと思う。



目に入った美容院で、髪の毛を金色にしてみた。ハーフみたい、とたまに言われる鼻の高さのせいか、自分で言うのもなんだけど、とてもよく似合っていた。



「きれいな髪だね」



街を歩いていたら、「自分の方がきれいでしょ」と言いたくなるようなきれいな髪をもつ女の人に話しかけられた。

お茶でもしよーよ、という軽い言葉に誘われて喫茶店に入って話をしてみたら、結構たのしくて。


そうだ、人生はずっと楽しかった。

息が吸いづらいなんて、ただの気のせいだった。

世の中は、こんなに楽しいことで溢れている。



そのあとは初めてクラブにつれていってもらったり、そこで女の人の仲間とかいうひとたちと仲良くなって、

安っぽいホテルに入るのも初めてだったし、

女の人のからだに触るのも初めてだったし、

その甘い声も初めて聞いたけど、


なんというか、悪くないなって思った。



しばらく寮にも家にも帰らなかった。



でも、三上からの連絡がうざくて、一度学校に顔を出すことにした。





ー アヤ。




学校に入った瞬間声が聴こえて、頭が痛い。

だってこの高校での思い出は、全部あいつがいるから。




ホールから音がした。




ピアノの音だった。




ききたくない音には蓋をしよう。




軽やかなあのワルツなら、俺の細胞に上書きしてくれる。


そんな気がした。



イロハ 終わり

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