にせものamoroso。 | ナノ

 イロハ 7

高校3年になって、俺は副会長になった。



父親に何か言われるのが嫌で、呼び出されても行かなかった。



副会長を選んだのは、カナメのほうが生徒会長に向いている、そう思ったってだけだけど、それを親にちゃんと説明できる自信はなかった。



「アヤさん」
「は?」



顔合わせで、生徒会に入ってきた1年に、いきなり名前で呼ばれた。普通、城崎さん、でしょ?なれなれしい!


「あ、俺、一哉って言います。書記として入ってきました」
「カズヤ、ねぇ…」


どうせ1年の付き合い。だけどやっぱり気に食わないから、「名前で呼ばないで」とだけ言ったらあからさまに落ち込んだ顔を見せたから正直ウザッて思った。




「アヤ」
「ん?」




顔合わせのあと、寮に帰ろうとしていたらカナメに呼ばれた。カナメは生徒会室の鍵を職員室まで持っていかないといけないみたいで、「一緒に行こ」と言われた。


「嫌だよ、それは会長の仕事でしょう」
「もし俺が急に倒れたら副会長の仕事だよ」
「倒れんの?」
「さあ」


意味わかんない、と言いながらもついていってしまうのは、カナメの隣の空気がおいしいからだと思う。




「カナメ、ここ職員室じゃないけど?」
「うん、教室」


連れてこられたのは、どっかのクラスの教室だった。もう放課後だから、人はいない。



「どういうこと?」
「だってさっきのアヤ、可愛かった」
「はあ?」
「名前呼んじゃダメって1年に言ってたでしょう」
「だってなれなれしいし」
「俺は?」
「ええ?」
「初めて会ったとき名前で呼んだけど、俺、怒られなかった」


初めて会ったとき、って2年前?よく覚えてるな。


「べつに、嫌じゃなかったし」
「ふうん」


カナメは笑って、そっとキスをした。







職員室に鍵を返したカナメは、「行こ」と俺の手を取った。

そこへ運悪く他の生徒が角を曲がってきたけど、カナメはその手を離さなかった。



「えっ、えっ?会長と副会長って付き合ってるんですか…?!」
「ううん、付き合ってないよ。」


カナメが淡々と答えた。


「な、なんだびっくりした〜」
「タナカくんの早とちり」
「ですね!僕、まだ諦めてませんから!」



その生徒はぺこりとお辞儀して去っていく。




「カナメの知り合い?」
「あんまよく知らない」
「何それ」
「あんまよく知らないのに、告白された」
「はあ?」


そんなの知らない。聞いてない。




「俺たち、付き合ってるように見えんのかなあ」


カナメが、繋いだ手を眺めながらそう言った。



「…きもちわるいこと、言わないでほしいよね」



俺はその手を振りほどいた。

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