▼ A-dur 13
「匠ちゃん!リーダーになったんだって?おめでとう!」
「待って、なんでのむちゃん知ってるのお?」
「お祝いしないとね!」
「うわっ、ふつーにスルーされましたけどぉ!」
新学期が始まってバタバタしていた学校もなんとなく落ち着いた雰囲気になって、授業も通常通りの時間割。
夏休みの後半を海外で過ごしたらしいのむちゃんは、ちょっとだけ色が黒くなっていた。健康的のむちゃん!かわいい。
のむちゃんはどこか外国の味がするお菓子を、僕の部屋にたくさん持ってきてくれた。僕はどこにも行っていないのだけれど、少しだけ地元に戻ったからそのとき買ったお土産を広げる。
「コンクールもがんばってたし、親衛隊も!あと、宿題もちゃんとできてたし、匠ちゃんてば絶好調だね!」
「えへへ、ありがとお。ま、宿題は歩先ぱいに教えてもらってやっと、だけどねえ?」
「おおっ倉敷さんって後輩に勉強教えたりするタイプなんだ?!意外!でもたしかに、あの人頭いいらしいもんね」
「そおなの、教えるのも上手!意外だよねえ。まぁ、のむちゃんが勉強できるのも意外だけれどぉ」
「それどういう意味?!」
「え?そのままの意味ー」
のむちゃんはほっぺを膨らませた。ごめんごめん、とかるく謝ると、次はないよ!、とかるくのむちゃんも笑った。
「で?倉敷さんとの進展は?」
「シンテン?特にないけどぉ…」
「ふぅん…?でも、裸見たんでしょう?」
「ゲホッ!」
「わー!匠ちゃん、大丈夫?!」
いきなりの話題に、飲んでいたミルクティーが変なところに入っちゃった。のむちゃんが背中をなでてくれて、しばらく咳き込む。
裸見たって、のむちゃんてばなんで知ってるんだっけ?とは言っても、あれは結構前の話だし…僕も半分、忘れていたのだけれど…
「倉敷さんが細マッチョって教えてくれたじゃない?でも匠ちゃん、なんで知ってるのかなって!あの人、季節関係なく長袖着てるしさ、ここ冷暖房完備だし!」
「…」
「ね、そろそろ教えて?」
「…」
逃げられない。
のむちゃんのぎらぎらした目で確信した僕は、ざっくり、かなりざっくり!のむちゃんに説明した。
初めてのお茶会で、くすり?をカップにいれられたこと。なんだかふわふわな気持ちになっちゃったこと。そしてちょっとだけ食べられちゃったこと。
「…」
「…」
「…」
「…なんで無言?!だから話したくなかったのにい!」
「…」
「いやいやだから、なんで無言?!なんか反応してよのむちゃんー!って、鼻血?!わわわ、無言で鼻血垂らすとか怖いからやめてよお!」
急いでティッシュを渡すと、やっとのむちゃんが動いた。鼻の上の方をおさえつつふごふご言っている。
「うぐぐ、やばい止まんない!」
「だ、だいじょうぶ…?」
「いや割と大丈夫じゃない!」
「だと思うよぉ…」
ぶつぶつと何かをつぶやくのむちゃん。もうほとんど意味がわからないから、聞こうという気持ちもしおれた。
「匠ちゃんて、なんでそう各種の攻めをほいほいしてくんの!僕を殺す気なの!」
「へ!」
「みんなに狙われてるってこと!倉敷さんは可愛い攻めでしょ?隊長は不良、園田会長は隠れ俺様、一哉くんは爽やか?あ、浮気ぜ…ぁ、ごめん」
「あはは、だいじょうぶだよお、一哉の話避けなくっても」
「いや今のはちょっと調子乗りすぎたごめんね?でもとにかく、なんかすごいメンツだね!」
「いやぁ…別にみんな僕のこと狙ってるとかじゃないよお…?特に園田さまとか…この前もすごい蔑んだ目で見られたしー」
「菩薩って噂、全然だね!」
「ほんと!ぜんっぜん!」
むしろ菩薩なところをみてみたいよ、僕は。
「歩先ぱいとも、いっかい喧嘩しちゃったしねえ」
「そうなの?」
「うん」
「でも仲直りしたんでしょ?喧嘩できるって、相当仲良くなんないとできないよ。それだけ距離が縮まってるってことだと思うけどなぁ」
「え…そういう、もんかなあ…?」
「うわべだけだったら、喧嘩しようなんて、思えないもの」
もしのむちゃんの言う通りだとしたら。潤ちゃんと喧嘩しちゃったことにも、意味があるのかな。
あると、いいな。
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