にせものamabile。 | ナノ

 G-dur 21

「え、と…あの…」


途方にくれた僕は何か言おうと思ったのに、汗がたらたらと流れるばかりで言葉にならない。え、これ誰?なんでこんな男の中の男みたいな人が親衛隊のお茶会にいるの?もしや親衛隊なの?

僕が混乱している中、「何の音だ?!」と誰かが入ってきたので僕は咄嗟に振り返る。


それは響会長だった。僕を視界にいれた響会長は、強面のイケメンさんと僕とを見比べて、楽しそうに目を細めた。それは小さな変化だったから、他の人が気づいたかどうかはわからない。


「おう園田」
「おう、じゃなくて…何があったんですかこれは」
「あ、の僕…ごめんなさい…」


よく分からないけれど僕がこの人を怒らせてしまったのははっきりしているから、半分泣きそうになりながらも強面さんの方を向き直って謝った。強面さんは難しい顔をして黙っていたけれど、少し経ってから強面さんは「あぁ!お前、橋本か!」と納得した。

それに食いついたのは、やはりというかなんというか歩先輩で。

「上村と匠ちゃん、知り合いなの?」
「中学のときの後輩。久しぶりだなあ」
「へえそうだったの!あんな可愛い子知ってるなら早く教えてよね」
「お前に話したら何されっかわかんねえし」


ええええ。歩先輩と強面さん、普通に話し始めちゃいましたけど。粉々になった食器たちの心配とかはいいんですか?いいんですか?


っていうか今、上村って言った?


「上村菫、親衛隊の隊長だよ〜」

歩先輩がへらりとそう教えてくれた。それでやっと状況を理解し始める僕。


「ちょっと清掃呼んできます」


響会長はどこかに電話をかけ始め、部屋の外に出て行った。


えーっと。歩先輩の言う通りだとしたら、あの強面さんはやっぱり菫さんで、テーブルひっくり返したのも菫さんで、そして彼は親衛隊隊長さんで。


ー 隊長はこわいひとだから、近づいちゃダメだよ


今さらのむちゃんの忠告を思い出した僕は震えた。


「も、申し訳ありません、でした」
「いやいやなんつーか、悪かったな驚かして」
「上村、名前で呼ぶと怒るんだよね〜気に入らないんだってさ」
「だって似合わねえじゃん、今の俺にその名前。でもいーよ、橋本は前からそう呼んでたもんなあ」
「イヤイイデス…上村さん、トオヨビシマス」
「えー!僕が菫って呼んだら殴るくせに!」

「おまえに呼ばれるのウゼェし」



そうか…この2年で菫さんは綺麗系からイケメン系に変貌を遂げたのか…。おとぎの国にいそうだった菫さんは、不良映画に出てきそうな上村さんに成長したと、そういうことか…。


「…でもあれ?上村さんが親衛隊長さんってことはあ、上村さんて園田さまのことお…」
「好きじゃねえからやめて、想像しただけでほんと吐く」
「あはは、上村は園田さまと昔からの知り合いなんだよ!で、親衛隊長になってくれって園田さまに頼まれたんだよね〜?だからあんまりお茶会とかには来ないんだけど、1年生に顔見せないのもどうかなーって思って連れてきた!」
「なるほどお…」


そんな話をしていると、清掃のひとが入ってきた。きっと響会長が呼んでくれた業者さんだろう。彼の姿は見えないから、もう帰っちゃったんだろうな、元々お茶会に参加してくれる日ではないし。清掃さんはさささと食器やら何やらを片付けていってしまって、さすがプロ…。


「匠ちゃん、清掃終わったらこっちの席おいでよー」
「イヤイイデス、僕今日はここに座りマス」
「ちぇーっ、上村のせいで振られちゃったじゃんか!!ばかばかー!!!」
「うるせえ俺のせいにすんな!」


僕は1年生が集まる席に座って、ふーっと息を吐いた。


「な、なんか幹部ってすごいキャラ濃いね…」


潤ちゃんが耳打ちしてきた言葉に、僕はぶんぶんと首を縦に振ったのだった。



prev / next


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -