にせものamabile。 | ナノ

 G-dur 18

校門に向かって、走り始める。レッスン棟からなら裏門が近いはずだ。いつも僕が居座るベンチの広場からは、3本の道がのびていた。1本目は僕が来た道。2本目は寮への道。そして3本目が裏門への道。


広場に着くと、ベンチに座る「黒」い後ろ姿が見えた。でも今の僕にはそれを意識に入れる余裕はなくて。


必死に足を動かした。さっきまで感じていた重さはもう気にならなくなっていた。



僕は、外に出なきゃ。


今なら出来る気がする。


裏門から、外に出て、そして。


そして?




「負けてらんない…!」
「何に負けないって?」
「うわあああああ」


3本目の道に入ってすぐのところでいきなり話しかけられた。というか、襟までつかまれてすごいくるしい!


「げ、響会長?!」
「"げ"とは何だ親衛隊め。光栄に思え。」


突然後ろから首をつかまれて光栄に思える人がいたら、僕はその人を心から尊敬する!ばたばたと暴れてみても、全然離してくれる気配はない。


「ぐえ、ちょ、離してください、僕急いでて、」
「どこに行くつもりだ?その先は校門しかねえだろ。脱獄犯?」
「ちがいます!今なら出られる気がするんです、僕は負けたくないんです!」
「はぁ?全然意味わかんねえ。つか今日、外出届出してた生徒はいねえはずなんだけど」
「…」
「脱獄犯であってたな」
「あってません!」


まだ見えないけれど、この道は門まで続いている。今なら出られる気がする。脚は震えていない。心だって揺れていない。僕は、今なら。


「今日じゃないと駄目な用事でもあんのかよ」
「、今しか、できない気がして…見逃して、ください」
「規則だからなあ」


響会長は、やっと襟をつかんでいた手を離してくれた。生徒会長らしいことを言っているけれど、その表情は意地の悪い笑顔で。全然生徒会長らしくない!



「つかさ、"今しかできねえ"?"だから今やる"?
負けたくねえってお前さっき言ってたけど、それって本当に勝ったって言えんの」
「!」


そうだ。勢いで街に降りて、それでどうなる?その次も降りられるという保証はある?街に降りること自体が目的ではない。それなのにいつの間にか見失っていた。僕が僕と向き合って、ちゃんと解決しないと意味ないんだ。


そう考えたら、涙が出てきた。


「ご、めなさい"〜、」
「おいおい泣くなよめんどくせえな」
「僕がんばりまずがら〜」
「いや知らねえし…勝手に頑張ってろよ…親衛隊、おまえほんと泣いてばっかだな」


ずびずびと鼻をすすっていると、また襟をつかまれてベンチのある広場に戻された。しばらくぐすぐす言ってたけれど、それも落ち着いて冷静になって、慌てていたとは言え響会長にすごい口のききかたをしてしまったことに気がついた。


「…さっきはごめんなさい、じゃましないでよバ会長!だなんて失礼なことを思って」
「はぁ?ンなこと思ってたのおまえ」
「ごめんなさいってば…」


ぎろり、と睨む響会長。でも僕はもう謝ったもんね。


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