▼ G-dur 12
「今度?いまじゃないの?」
「えええ、いま何にも持ってないですよう」
「たくみちゃんがいるじゃないー」
「ぼ、僕?」
「ねえねえ、一緒にお風呂入ろうよ!」
「え、なんでですかあ」
「えー?………………シャンプー試すため?」
なにその怪しい間!いやですよう、と断ったら、歩先ぱいはしゅん、という顔になってしまった。
「たくみちゃん、僕のこときらいだよね…」
「え、そんなこと…」
「僕があげたスカウト権だって使ってくれなかったし」
「!知ってたんですかあ…?」
「そりゃあね!自分がスカウトした子が入ってくれるかどうか気になるもん!」
いじいじと歩先ぱいがいじけ始めてしまって、僕はあわてた。そうだよね、歩先ぱいとしては、せっかく声かけた人がそれを無視するみたいに一般受験?しちゃったわけで、そういうのって悲しいものかもしれない。
「ごめんなさい…僕、そこまでちゃんと考えてなくてえ…自分の力で入りたかったんですう…」
「僕のこと嫌いじゃない?」
「もちろんですー、だいすきですよう!」
「あは、じゃあお風呂入ろ!」
ぱあっと表情が明るくなって、僕の手を引いてお風呂場へと向かう先ぱい。わあ、いろんなシャンプーがいっぱい!…じゃなくて!
「ちょ!、何脱がしてるんですかあ」
「うふ、たのしい」
僕より少しだけ背が小さい歩先ぱいは、だからこそ僕のシャツのボタンを外しやすそうだった。ぷちぷちとあっというまに全開にされてしまって、ここからは自分でやるから、と距離をとると、えーっと言いながらもやめてくれた。でも、にやにやしてこっちをみる視線はとても痛い…。
「見ないでくださいってばあ、」
「たくみちゃんお肌すべすべだね!」
聞いちゃいねえ…またもや僕のキャラが崩壊し始めた。
「そんなに見てると一緒に入りませんよお?」
「じゃあ10秒の間めつぶってるからその間に脱いで!いちにさんし」
「はや!数えるのはやすぎですからあ!」
すぐに10秒経ってしまいそうだったので、僕はパパパーッと脱いでタオルを巻いた。
かちゃ、とお風呂場のドアを開けると、ものすごく広かった。僕の部屋とは全然ちがうそこに、びっくりしてきょろきょろとしてしまう。だってなんか、天井が高い気さえするよ?!いいのこんなに広くて!冬とかあったまるのに時間がかかりそうじゃない?!
「歩先ぱいのおうちって、お金持ちい…?」
「まあそこそこー?」
いやいや、そこそこくらいのレベルだったらこんなに優遇されないからね絶対。きっといいところのお坊ちゃんなんだこのひとは。
歩先ぱいも僕に続いてお風呂に入ってきた気配がしたので、振り返ると彼はゼ・ン・ラ!
「きゃあああああああああああーーーーーーーーなんでハダカ?!」
「なんでって、お風呂に入るからに決まってるでしょ」
「ちょっとは恥じらいを!恥じらいを持ちましょう先ぱいぃ!」
えっへん、と腰に手を当てて仁王立ちする歩先ぱい。タオルを巻けとまでは言わないから、そんな胸張って見せびらかすのはやめてください…。
っていうか、歩先ぱい、思ったよりも身体が引き締まってるんだけど。いつもは制服のブレザーを羽織っているから気づかなかったけれど、こうやって見ると筋肉も結構あって、腹筋もうっすら割れている。背は僕よりちっちゃいのに、なんていうのかな、細まっちょ…?意外とたくましい身体にちょっと戸惑って、僕は思わず目を逸らした。
だから僕は気付かなかった。歩先ぱいがにやあり、笑っているのを。
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