にせものamabile。 | ナノ

 F-dur 13

「ううう…くらくらするう…。」
「たくみちゃん、何してんの!ほらお水!ほんとおばかなんだから!」
「ばかじゃないもん〜〜〜〜あゆむせんぱいのほうがばか!えろせいじん!」
「はあ?!今それ関係ある?!っていうか一人なの?いつも一緒にいる友達は?」
「のむちゃ、といれ……きっとよりみち……」
「じゃあたくみちゃんひとり?」
「ううう…ひとり…ぼく、ひとり…うえっうええん」
「え…えええ?!なんで泣く?!」
「だって…ぐすっ、ひびきとくりすます、くりすますだったのにい…」



かずすくない行事、たのしもうねってやくそくしたのに。どうしてこんなふうにぎくしゃくするの。うまくいかないの。



「会長?会長ならあっちいるよ?あっち行こう?泣かないでよたくみちゃん…僕たくみちゃんの涙によわいんだよ…」
「やだあ…ひびき、おこってるもんん〜〜ぐすっ」



ちがう、ほんとはわかってる。ひびきはこんなことでおこったりしない。ふみくんとの文通とか、会ったりとか、そういうのだってぜったいにおこったりしない。


だって、みとめてくれた。


たしかにふみくんはぼくによくないことをしたけれど、それでもつたえたらわかってくれて、

わかってくれたことを、ひびきもちゃんとわかってくれた。



それなのに、どうしてぼくはわざわざひびきにかくしごとをしてしまったんだろう。

ぼくのともだちをたいせつにかんがえてくれるひびきのきもちを、むげにするみたいなことしちゃったんだろう。




「ほら、とにかく会長のとこ行くよ」
「ひ〜〜〜〜〜〜〜〜」




そうだった、あゆむせんぱいはじつはむきむきなんだった。ちからでかなうわけなくて。

なかばかかえるようにして、あゆむせんぱいはぼくを、せいとかいのひとがいるところまで引きずっていく。




「会長!たくみちゃんがぐちゃぐちゃになってます!!!」
「はあ?!」
「まちがってお酒飲んじゃったみたいで!」



ひびきがおどろいた声でふりむく。みんなの視線がこっちにあつまって、おもわずあゆむせんぱいのうしろにかくれた。

でもすぐにあゆむせんぱいはぼくのせなかを押して、ひびきのまえに立たせた。



「ひ、ひびきぃ……」
「匠?!なんで泣いて…」
「…ごめ、ひびき、ごめなさ…」
「、」
「きら、きらわないで、ぼく、だいすきなの、ひびきのこと、すきで、すきで、たまらなくて、
なのに、かくしごとしちゃって、ごめんね、も、もうしない、しないから、」

きらわないで、と言ったところで、ひびきに手首をつかまれた。そしてそのまま引っ張られて、ひびきのむねに閉じ込められる。ひびきはぼくの頭をそっとなでた。




「おまえ、とにかく落ち着け、な?きらわねえから、そんなのありえねえから、」
「ほんと…?」



おそるおそるひびきを見上げると、「…そんな顔見せんな」とまたひびきのむねに顔をくっつけられた。ひびきの服がよごれちゃうからはなれようとしたけど、ひびきはそれをゆるしてくれない。




「咲月、」
「はい」
「とりあえずこいつ、保健室つれていくからあと頼んでいいか?」
「わかりました。先生に声かけます?」
「いや、いい。なにか問題が出てきたら連絡する」
「はい」




ひょい、とひびきはぼくを軽々ともちあげて、「よろしく」と副会長に声をかけてホールを足早に出る。




「ひえ〜〜〜!お姫様抱っこ!!!」というのむちゃんの声が、聞こえたような気がした。












「うっ…、ひびき、きもぢわるい…ゆっくり…」
「無理」
「ひどいぃ〜〜…」
「ひどいのはおまえだろ、おまえ、本当に、馬鹿!」



みんなしてばかばかって…。



保健室には誰もおらず、ひびきはカードでピピッと鍵をあけた。つん、と薬品のような、清潔なにおいがする。

僕、保健室ってあんまり来たことがないかもしれない。となんてことないことを考えていると、ひびきは「ちょっと待ってろ」と僕をべっどにそっと座らせた。



「かってにれいぞーこいじっていいの?」
「保険医にはあとでちゃんと言っておく。とにかく水飲め」
「あい」



小さいペットボトルに入ったお水を渡されて、指示通り飲んだ。つめたくてきもちい。

でもそれでは足りないみたいで、「全部飲みきれ」と無茶なことを言われた。



「むり〜」
「アルコール、体から出さないといけねんだよ」
「あるこーる?」
「おまえ、ホールのはじにあるテーブルは教師用だって言っただろ」
「んんん〜〜〜?」



そんなこと言われたっけ?指示どおりにお水をごくごくと飲みながら考えるけど、全然思い出せない。



「顔赤いの、少しは落ち着いてきたな。さっきまでりんごみたいだったぞ」
「りんご?なんかかわいい」
「ああ、すげえかわいかった」
「へ」
「またりんごになった」




ひびきに笑われてはずかしくなった僕は、ごまかすように勢いよくお水を流し込んだ。



「…おまえさ」
「ん」
「酒飲める年齢なっても、飲むの禁止な」
「へ」
「俺以外の前で飲んだらゆるさねえから。一生禁止」
「…!」
「こんな可愛くなるとか聞いてねえ」
「…いっしょう?」
「一生」
「…わ、わかった」
「声ちいせえよ」



また笑われて、きっと僕はまたりんごで、でももうそれはしょうがないから、ひびきに抱きしめてもらってかおをかくした。



「…ひびき、ちゅー」
「保健室でキスとかやーらし」
「…しないの?」
「するけど」
「するんじゃん」
「るせ」


ちゅーをしながら僕のあっつさに気づいたひびきは、「少し寝ろ」と僕をベッドに押し込んだ。









落ち着いた頃、ホールに戻ったときには業者さんによる片付けが始まっていて、食べ物なんかはもうなくて。

でも大きなクリスマスツリーは飾られたままだったから、それを背景にして一緒に写真を撮ろうってお願いしてみた。


「おまえ、生徒会で写真撮ってるときすげえ見てただろこっち」
「え、気づいてたの?」
「そりゃ気づくわ、そのくせこっち来ねえし」
「…ちゃんと謝ってからじゃないとよくないとなって」
「別に怒ってたわけじゃねえよ」
「ん、わかってる。でも、ちゃんとしたかった。伝えたかった」
「…そか。じゃあ撮るぞ」


その写真はもちろん、僕の宝物になった。

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