にせものamabile。 | ナノ

 F-dur 12

ピンポーン


ピンポーン




ピンポーン





「……あ!のむちゃんと約束してるんだった、」






昼ごはんをのろのろと食べてぼーっとしていると、部屋のチャイムが鳴らされた。あわててドアを開けにいく。



「匠ちゃん!電話出ないから直接きた!」
「あ、ごめんのむちゃん、」
「今日のお洋服持ってきたよ!着替えよう!おー!」
「お、おー!」



いつも以上にのむちゃんの元気さに圧倒されて、言われるがままに着替えさせられる。でもこうして、ついていけばゴールについてる感じがのむちゃんと一緒にいる心地よさなような気もする。



「うん!いいね!似合う!!!」
「そお?変じゃない?」
「いやーむしろもっと奇抜なの着せたかったけどね!僕は!シンプルなのがいいって匠ちゃんがいうから、ただの黒スーツにしたんでしょ!」
「いやいやいやいや、こんなおしゃれスーツ"ただの"とかいうのやめてよ!蝶ネクタイだってはじめてだよ僕!」
「そしてそしてやっぱりおでこ出しちゃお?サイドも片方あげちゃお?」
「聞いて!」
「聞かなーい!ぐふふ、園田会長がギャップに萌えるのが早くみたい」
「…」
「匠ちゃん?どした?」
「や、ううん!何でもない!ひびきギャップで倒す!!!」
「いいねいいね!」



くよくよしたって仕方ない。ちゃんと謝ろう。それで、クリスマス会を楽しもう。














「全然ひびきに会えない!何故!」
「あー、なんか撮影会始まっちゃったね…」



クリスマス会が始まったら近づくチャンスがあるかと思ったのに、生徒会のみなさんはなんかみんなと写真を撮りはじめてしまった。

僕だってまだひびきと写真撮ってないのに!ツーショットではないとはいえ、ずるい!



でもきっと、みんなこの最後の冬を楽しんでいるんだな。3年生と一緒にいられる、最後の冬。


クリスマス会って何やるのかなって思ってたけど、のむちゃんの言うとおりおめかししてごはんとケーキを食べるだけみたいだ。

最初にひびきの挨拶があったけれど、そのあとは基本的に自由。この時期は、どの学年もテストや受験で忙しいからなのかもしれない。

先生たちも参加して、みんな楽しそうだ。



「のむちゃん、なんか食べよー」
「おー!」



ホールの中央には大きなクリスマスツリー、テーブルにはターキーはもちろんたくさんのごちそう、ちゃんとケーキもある!!

これを食べないのはもったいない!



「ほふひゃん、ほれへっひゃおいひー」
「匠ちゃん、もぐもぐで何言ってるかわかんないよ!かわいいけどさ!」
「んむ、おいしーって言ったの!」
「はいはい」


あれ?なんかのむちゃんがクールだ!いつもはのむちゃんの暴走を止めるのが僕の役目なのに。



「橋本ー」
「匠ちゃん、濱田くん呼んでるよ!」
「ほんとだ」


のむちゃんとお皿にこんもり盛ったごはんを食べまくっていたら、隣のクラスの濱田くんが近づいてきた。


「久しぶり」
「あれからあんま話す機会なかったな」



"あれ"とは、濱田くんが僕に告白してくれたときのことを指しているのだろう。


「橋本が会長と付き合ってるって知ったときびっくりした。野村は結構前から知ってた?」
「んまあー、そうね!匠ちゃんが教えてくれた!すごく嬉しかった!ね!匠ちゃん!」
「のむちゃんに隠しごとは無理だよー」
「ふはは!ていうか濱田っち、匠ちゃんと写真撮りたくてきたんじゃないの?」
「うわ、何でばれてんの?」
「さっきから携帯カメラモードにして準備万端だから!」
「やめろよそういう恥ずかしいこと暴露すんの!」
「自分が聞いたんじゃん!」



のむちゃんと濱田くんのペースについていけない僕は、「僕と写真?」と状況をやっと読み取れたところで。



「僕、撮ってあげる!貸してー!」
「さんきゅ」
「はい、笑ってー!」



なんでのむちゃんが仕切ってるのかわかんないけど、みんなが楽しそうだしいっか!

濱田くんは「ありがとう、すごい似合ってる!」と誉めてくれて、元いた輪に戻っていった。



「……で、ひびきは!まだ!撮影会!!」
「長いねー、っていうか村崎くんとかはいないんじゃん、……あ!あそこに皆川くんと一緒にいるよ〜」
「………」



いいな、潤ちゃん。僕もひびきと一緒にクリスマス会したい。写真撮りたい。



「匠ちゃん、僕トイレ行ってくる!!
「は〜い」


僕はホールのはじのほうによけて、のむちゃんを待つことにした。こんなはずじゃなかったのにな。すぐに謝って、クリスマスツリーの前で写真撮ってもらうはずだったのに。

ひびきと付き合ってるってやっとみんなに言えたのに、やっぱり距離はうまらない。


僕は近くのグラスに手をのばし、きたない気持ちを流し込むようにしてジュースをぐびぐびと飲んだ。







「……、くみちゃん、」
「んーーーーーー?」
「たくみちゃん?」
「あーー、あゆむせんぱぁい、げんきですかあ?」
「こんな隅でなにしてるの?寝ないでよ危ないな!」
「んんんーーー?あぶなくないですよう、ふふふ」
「えっ、なんかすっごい顔赤いんだけど?!」
「ひゃ、あゆむせんぱいのて、つめたあい、きもちぃーー」
「待って、たくみちゃんどうした?!」



どうした?どうもしないよ?



「あゆむせんぱい、わ、」
「ちょっ、立てないの?」
「たてなあい、ひっぱってくらさあい」
「あのさ、たくみちゃん、先生たち用のお酒飲んでない?!違う色のテーブルの飲み物は飲んじゃダメって会長説明してたでしょ!」
「うぇーー?」
「重い!たくみちゃん!」
「しつれいー!」


あゆむせんぱいにしがみついてたら、わきばらをべしんとたたかれた。ひどいよあゆむせんぱいのばか!

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