▼ H-dur 18
「園田会長。教室の装飾、確認完了しました。1-B、本日も違反はありません」
「ああ、如月くんありがとう。では次のクラスに行きましょうか」
教室内を点検していた蘭ちゃんが戻ってきて、響会長と合流した。
響会長の近くに行きたいけれど、変なとこ見られちゃったし。そもそも近づいたら制裁だし。
生徒会補佐の蘭ちゃんがうらやましいよ。僕にそんな役職がつとまるとは到底思えないけれど。
麗しい2人は教室を出て行く。クラスのみんなが2人を目線で追うのを、ぼんやり見ていた。
響会長は雪ちゃんや蘭ちゃんのこと「見てて飽きない」とか言ってたし、頼りになるって思ってるみたいだし、
蘭ちゃんは響会長専属の補佐なんだっけ?雪ちゃんじゃなくて、蘭ちゃんのことがすきとか、ありえるかな、…ありえなくはないな。
っていうか付き合ってるひと実はいたりして?もしそうなら…
…大変だ、頭の中が響会長でいっぱいだ。
ああピアノ、弾きたい。
「匠ちゃん!聞いてる?」
「へ」
「もー!聞いてなかったでしょ!声出てよかったねって!」
「あ、うん!心配かけてごめんねえ?」
「いいのさ!匠ちゃんが心配かけんのはいまに始まったことではないし!」
「もう!」
なんでそう、すぐに憎まれ口叩くかなあ?!
「そんなこと言ってえ、僕のこと大好きなくせに」
「そうだよ、だーいすき!」
「!」
「わはは!真っ赤!」
のむちゃんはいつもまっすぐ。敵うはずがないよ。
「あ、そうだあ!ちょっといっちーのとこ行ってきていーい?いまの時間シフトだって言ってたよねえ?」
「同じ階だよねたしか!いいよ!ただし写真撮ってきてね!」
ひとの少ないところには行かないこと、宣伝用のスケッチブックも持っていくこと!という約束で、僕はいっちーのクラスに行くことを許された。
「いってきまーす!」
教室を出て、いっちーのクラスがお店を出している方向に進む。…ん?あれ?ここかな?"お店"っていうか…
「お化け屋敷!!!」
「おぉ橋本、…って何だよそのかっこ!」
いっちーのクラスはお化け屋敷。その受付担当がいっちーなわけだけれど…吸血鬼!ベタだよ!
しかもいっちーって爽やかだから…そのギャップにくらくら来るよ…。
「いっちーかっこいい…」
「そーか?自分的にはしっくり来ないんだけど…俺、吸血鬼って感じじゃないし」
「じゃあ何ー?」
「うーん、狼男とか?」
「その自己評価今すぐ正したほうがいいと思うよお」
狼男こそいっちーのイメージじゃないからね?!
「橋本は似合ってんな〜ギャルソンだと思ってたけど」
「僕だってそのつもりだったよお、でものむちゃんが!のむちゃんが!」
「ははは、つーか声戻ったんだな、よかったよかった」
「うん!心配かけてごめんねえ」
「それ今に始まったことじゃないだろ」
いっちー、のむちゃんと同じこと言ってるよ!きい!
あっそうだ、いっちーのかっこを写真に撮らないと!
「のむちゃんに見せなきゃいけないから写真撮っていーい?」
「嫌だよ、野村絶対大笑いする」
「えーっおねがいっ!僕も一緒に写るからあ!ね?」
「…おまえ本当小悪魔だよな」
「ふへへへ〜」
仕方ないな、と呟いたいっちーは、呼び込みをしていたゾンビの人に僕の携帯を渡して「撮ってくれ」と頼んでくれた。
「吸血鬼とクマってすごい組み合わせだな。はい、撮るよ。3、2、1」
カシャリ
わーい、いっちーとのツーショット!のむちゃんに自慢しないと!
「ありがとう!じゃあ僕あんまり邪魔するのもよくないからそろそろ行くねえ」
「おう、気を付けろよ」
「うんっ!ちょっと歩くけど同じ階だから大丈夫だよお」
じゃあね〜と手を振って、自分の教室に戻るため歩き始める。
みんながんばってるなあ。
中等部のときも文化祭自体はあったけれど、こんな大々的なものではなかったし、何より周辺校からひとは来なかったし。
一応、分担された作業をやるとかシフトに入るとかそういうのはやっていたけれど、友達という友達もいなかったから、そんなに楽しかった覚えはなくて。
「文化祭って、たのしいな…」
あと1日で終わっちゃうなんて、さみしいよ。
「橋本?」
呼ばれて振り返る。
そこにはなんと、すみれさんが!
「げ」
「"げ"とはなんだ」
だってこの格好ですみれさんと会うなんてタイミング悪いし、っていうか隣にいるの、棗さん…。
「よく僕だってわかりましたねえ、この後ろ姿で…」
「おまえの歩き方特徴あるし」
「えっうそ」
そんな変な歩き方してるの僕!
「おまえ、野村と一緒にいろってアイツから言われなかったか?」
「なんで知ってるんですか!」
「よくわかんねーけど、気を付けて見とけってアイツが言うから」
アイツ、って響会長だよね。過保護!…でもそれなら、どうして棗さんと一緒にいるの?棗さんに閉じ込められたんだよ、僕は。
「…」
「…」
棗さんは黙っている。そうか、僕と城崎さんしか知らないんだ、棗さんが関わっていたこと。
「棗さん」
「…」
ビクッと棗さんは震える。僕がすみれさんになにか話すと思っているからなのかな。
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