にせものamabile。 | ナノ

 H-dur 17

「ごめんなさい」


机についちゃうんじゃないかと思える勢いで、リン君は頭を下げた。いきなりのことに反応をかえせない。


「この前いきなり電話して…勝手なこと、一方的に言った」
「…」


ああ…。そういえば、朝っぱらから電話がきたんだった。一哉の携帯から電話がきたとおもって取ったらリン君で。

"一哉と会わないで"って言われた。


いきなりどうしてだろう、もうかかわりないのに。そう思っていたのだけれど、

城崎さんが僕のことを"調べる"ときにリン君にも話を聞いたせいで、リン君は僕の存在を思い出してしまったのだろう。

どうして今さら僕の名前が出るのかと、疑ってしまったんだと思う。



「…俺、勘違いしてて…君の名前が久しぶりに出て、やっぱり動揺した。まだ続いてんのかって。それで…」


電話をかけてきた、と。


「バカだよね、ちゃんと二人で話し合うべきだった、俺が話す相手は君じゃなかったのに」
「…」
「しばらくして後悔して…勢いで君の連絡先消しちゃってたから謝ることもできなくて…一哉に聞いて、この学園に来たんだ」


文化祭なら周辺校の人間も入れるし…、とリン君。


「俺からも謝る、橋本。俺の過去の行いが、こうやって未だに周りに迷惑かけてるんだって、自覚した」




"橋本"。



名字で呼ばれて、なんか、もう、




爆発する!!!





【かってだね、ふたりとも】
「「…」」




のむちゃん、スケッチブック使わせてもらうね。




【でんわのことわざわざ謝んなくていーよ、びっくりしたけど、いつか忘れる】



実際、ほぼ忘れてたし。



「でも…」
【忘れらんないのはそっち】
「…」
【そのためにぼく、またまきこまれてる】


そうだよ。僕は二人の恋愛に巻き込まれて、傷ついて。やっと立ち直ったのにわざわざ姿見せに来て、一体どういうつもりなんだろう。


【二人のカンケイは、二人でかんけつさせてよ。ぼくはもうカンケイない】


あー、声出たらもっと色々言うのに。言いたいことはたくさんあるけれど、書くペースがついてこないよ。


「失礼なこと、言っちゃったなって…謝りたくて」


失礼、だなんて今に始まったことじゃないよ。


【ハチアワセしたあの日、リン君、ぼくに謝ったでしょ】
「そうだった、かも…。申し訳なかった、から」


きい…!なんなの、このひと!

リン君と鉢合わせして、僕は一哉にフラれて。家から出るときに言われたんだ、リン君から。"ごめんね"って。


何に対しての ごめん?

どの立場からの ごめん?


"ごめんね"なんて、リン君に言われたい言葉じゃなかった。



思わず立ち上がって、バン、と両手で机を叩いた。



「リン君って一哉しか見えてないからこんなことになるんでしょ 一哉もそうだよリン君しか見えてないでしょそのくせちゃんと相手のこと考えてない周りのこと考えてない考えてるようで考えてるふりして自分のことばーっかり!!!」


はあ、はあ、と乱れた息を整える。


「匠ちゃん、声…」


のむちゃんの呟きが後ろから聞こえた。ほんとだ、僕、声出てるじゃん。


言いたいこといーっぱいあるよ!


「もう、僕に謝らなくていいから!ふたりは、お互いのことをよーく見て!考えて!進んでいって!僕は僕で自分の道進んでる!!!」




そう、前に進んだの!




「僕がすきなのは響会長だけ!」


やっと口に出して言えた!すっごく言いたかった!声がでなくなった昨日から、特にこの気持ちがあふれちゃって、でも声がでなくって。本当は言いたくて言いたくて仕方なかった。


「…」
「…」


ふたりは、僕の顔を見て目を見開いている。うわー、僕やらかした。でも言いたいこと言えた。伝えたいこと、ちゃんと伝えた。


「た、匠ちゃん」
「何!」
「うしろ、うしろ」


小声ののむちゃんの声に、振り返る。



「へ」



響会長?!



生徒会補佐の如月蘭ちゃんと一緒に、教室に入り口に立っている。



待って。聞こえた?聞こえてないよね?ん?

いつの間にか教室シーンとしてるけど、いつから…?



「匠ちゃんが机叩くから注目集めたんだよ…」
「えっ…」


とりあえず席に座って、くまさんの帽子をかぶり直した。


「えっとリン君、ごめんなさいいきなり大声だしちゃって。僕が言いたいことは、そんだけ」
「う、ううん、橋本くんの言ってることは、ただしいから…」
「僕が言うのはなんだけど。しあわせに、なって」


もう会うことはないと思うけど。



二人の顔を見て、しっかりと告げた。うん、と頷くふたり。



教室はもうシーンとはしていなくて、もともとの賑やかさを取り戻していたからひと安心。…けれど後ろの存在感はどういうこと。



「野村くん、昨日までの売上表は?午後すぐに提出のはずでしたが」
「園田会長!えーっとほら、色々ありまして。色々」


のむちゃんが響会長に怒られている…。でもいいな、響会長と話せて。僕も実行委員会やるべきだった…。


「橋本くん、そろそろ行くね」


リン君の声に引き戻される。


「あっ、うん、」
「そうだ橋本…城崎さんって、何組か分かるか?城崎文さん。」
「えっ…」
「1学期まで生徒会で一緒でさ、突然転校しちゃったから話したくて」



一哉はそれもあってこの文化祭に来たらしい。でも城崎さん、一哉とはもともとの知り合いじゃないって言ってなかったかな。生徒会で一緒だったってどういうこと?なんでそんな嘘ついたんだろ。


そういえば城崎さん、何組?っていうか昨日あのあと、どうなったの…?



「…ごめん、全然わかんないやあ」
「そっか、ありがとう。じゃあ、…さよなら」
「うん、さよなら」


教室を出ていくリン君と一哉に手を振っている間、のむちゃんはなんかの紙を響会長に見せていた。さっき言ってた売上表かな?




「おい野村ァ…あいつら誰だよ」
「一人は匠ちゃんの元カレですね☆」
「ほう…?」


小声でぽそぽそ話すふたり…うん、こわくて近づけないね!のむちゃんのばか!

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