にせものamabile。 | ナノ

 H-dur 16

すきなものが増えすぎて、

たいせつなひとが増えすぎて。

いつか息ができなくなりそう、だなんてしあわせな、不安。なんてね。



「…」
「匠ちゃん〜、機嫌なおして〜!」
「…」

さっきからずっとのむちゃんが話しかけてくるけど、THE 無視です!だって、ひどいよ!


文化祭2日目。きょう、僕はクラスの出し物のほうに顔を出している。シフトは午前だけだったからもう終わったのだけれど、"宣伝になるから!"と教室に残された。

僕のクラスでは、ベタに喫茶店を出している。内装をシックにして、接客係はギャルソン。


問題はそれ。衣装!

僕も着るはずだったのだけれど、着てみたかったのだけれど、声が出ないと接客ができないから外れることになった。みんなには、のどを痛めたって伝えてあって。


接客係はできない、だからといって裏方も難しいということで、僕がのむちゃんに頼まれたのは教室の前での呼び込み。

そこまではいいよ?けど…



渡された衣装は…有名な、くまのご当地キャラの着ぐるみパジャマ…!!!



みんなはギャルソン着てさ、すっごいキャーキャー言われててさ!

僕だってギャルソンでかっこいいクールな男になるはずだったのに!ほっぺたが赤いくまさんじゃ全然だめだよ!!



のむちゃんには「匠ちゃんのギャルソン、可愛かっただろうな〜!!でもくまさんも可愛いよ!!」って残念そうに言われたけれど!

そうじゃないの!!かっこよくなる予定だったの!!



「も〜そろそろ機嫌直して!午前中、がんばって呼び込みしてくれたじゃない!匠ちゃん、いま声出ないんだから、そのキャラならしゃべらないって設定でいけるじゃん!」
「…」
「ほらっ、勧誘してきて!でも危ないから教室から離れちゃだめだよ!」


のむちゃん、実はクラスの文化祭委員だったりする。お祭りだいすき人間です。

響会長から「野村と離れるな」って言われてるから、午後シフトののむちゃんと一緒にいることにした。


…でもたしかに、のむちゃんには心配かけたし、迷惑もかけたし…クラスの売上に貢献するというのはいま僕にできる一番の罪滅ぼしなのかも…。


しょうがなく、僕は教室から出る。

大きなスケッチブックを首から下げて、通路を通るお客さんに勧誘するように言われてるけれど…。

声が出ないので、なかなか気づいてもらうのが難しい。まわりのクラスはすごい声で呼び込みしてるし…。


のむちゃんに言われたとおり、道ゆくひとを後ろから追いかけて、背中をつんつん、として気づいてもらう作戦。

「洋服の裾を引っ張るんでもいいよ!!」って言われたけど、洋服のびちゃったりしたらやだからやらない。




「…」
「うおっ、びっくりしたー!」


肩をとんとんして、立ち止まってくれたのは3人組。バッジの色から2年生だとわかる。


【1年B組、喫茶店きてください(・(ェ)・)】

そう書かれたスケッチブックを見せると、先輩たちは一瞬きょとんとしたけれど、あはは!と笑ってくれた。


「1-Bってギャルソン喫茶とかじゃなかった?クマもいるの?」
「つか可愛いね君!」
「この子あれじゃん、1年のランキング入ってた子!名前、なんだっけ?」


問いかけられて、胸につけてた名札(もちろん、のむちゃんお手製)を指差す。


「なに、しゃべんない設定まで徹底してんの?えらいねー」
【しゃべると怒られます(・(ェ)・)】
「あはは、誰に?まー可愛いたくみちゃんのお願いならしょうがないなー、ちょっと寄って行こうぜ」
【わーい(・(ェ)・)ありがとうございます!】


のむちゃんお手製のスケッチブック、万能!ちょっとめくるの大変だけど、しゃべらなくちゃいけないことは大体用意されている。


3人組を席まで案内すると、のむちゃんに"よくできました"と誉められた。少しでものむちゃんの役に立ててるかな?




「橋本ー!お客さんー!」
「!」



勧誘のためにまた廊下に戻ろうと思ったら、クラスの子に呼ばれた。振り返ると、その後ろには人影が。お客さん?はて。どなたかな。



「!」



一哉…?!?!?!




「え、匠ちゃん!一哉くんでしょあれ!呼んだの?!そのとなりは?!」


のむちゃん、矢継ぎ早!いきなり現れた一哉の姿に、僕の頭は一瞬混乱、反応が遅れる。そのとなりは、恋人のリン君だとおもう。

一度しか会っていないし、それも一年以上前のことだからぼんやりしてるけれど、たぶんそうなのだろう。


「…」


どう反応していいかわかんなくて、…っていうかなんでこんな格好のときに来るかな!!やっぱりギャルソン着てればよかった!

のむちゃん、恨むよ…。


【かずやとかれし】


スケッチブックでのむちゃんに教えてるあいだに、二人が後ろのドアから教室に入ってきた。文化祭の間、そっちは出口だよ!


「橋本、いきなり来てごめん」
「あの、橋本匠くん。ちょっと…いいかな。話したいことあって…」
「…」
「あー、この子いま喉いためてて、声出せないの」


のむちゃんが、ちょっととげついた声でリン君にそう言った。

のむちゃんには、「一哉と付き合ってたけど浮気されて別れた、一哉にはもう恋人がいる」って伝えてあったから、その浮気相手がリン君だと思ってるかもしれない。

むしろ僕が浮気相手だったわけだけれど…。



【いーよ、聞く】
「匠ちゃん…」


スケッチブックをのむちゃんに見せて、それをそのままリン君のほうにも向ける。


「ありがとう」


ほっとした顔をするリン君。二人を席に案内してから、僕もくまの帽子部分を脱いで向かい側に座る。


「そろそろ生徒会の見回りの時間…!」


のむちゃんの半分はらはら、半分うきうきの声は、もちろん僕に聞こえることもなく。

リン君に何言われるんだろう、とどきどきしながらスケッチブックをめくった。

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