にせものamabile。 | ナノ

 A-dur 21




「はぁっ、はぁっ」



ちょ、待って…サイジョウカイ…なめていたよ…。

階段で降りるって、結構無謀だったみたい。地震でエレベーター止まったらここのひとたち大丈夫なの?僕、片道が限界だよ…。あと数階だけれど、下り階段は脚に来る…。



ピルルルルル…



「!」


聞きなれない音がカバンからして、反響するその音に慌ててカバンの中を探る。

それは園田さまの携帯が鳴っている音のようで、さらにたらりと汗が垂れた。


画面を見ると「園田携帯」からの着信。え、これって園田さまの携帯じゃないの?園田さまの携帯に園田さまの携帯から着信?え?


よくわからないけれど階段室にこだましそうな勢いで鳴る着信音を止めるため、留守電に転送した。そして僕は再び階段を降り始める。




シャワーを浴び終わった園田さまは、きっと携帯がないことに気付いたんだ。

追ってくるかな。

返せって言われるかな。



でも、あんな写真が入っている携帯をみすみす返すわけにもいかないわけで、このあとのことは何にも考えていないけれど、「とにかく逃げないと」っていうことだけは頭の悪い僕にだってわかる。



「つ、ついた…」



1階について、階段室のドアを開けた。そこは来るときに通った特別棟のロビーで、内側からは特にキーがなくても外に出られた。



外はもう、真っ暗だ。



ピルルルルル



また着信音。どうしよう、電源を切ったらいいかな。



ヴーヴーヴー


園田さまの携帯をカバンから取り出したところで、今度は僕の携帯が振動した。開いてみると、メールで。



【s1105@〜】



表示されたアドレスに、思わずヒッと声が漏れた。




【電話でろ。逃げられると思ってんの?  -添付ファイルあり】





添付された画像は、全部スクロールしなくてもわかった。僕のぐちゃぐちゃになった顔の一部が見えて、さっき撮られた写真が添付されていることを理解、して。




なんで…?だってあの写真を撮った携帯は、僕の手元にあるのに。



カタカタと震え始めた手で、通話ボタンを押した。




『おまえ、何逃げてんの?』
「、」
『ま、逃げられるわけねえけど』
「な、んで写メ…」
『とっくに転送済みだっての。これ、親衛隊のやつらに送ったらどうなるか分かってる?”ヌケガケ禁止”なんだろ?』


おまえに脅された、なんて言ったらどうなるかね?とおかしくて仕方ないみたいな声で笑う園田さまに、なんて返したらいいのか分からない。


「そ、そんなこと、してないって、言います、し」
『へえ?シンエイタイのおまえと、生徒会長の俺。みんなが信じるのはドッチかねえ?』



庶民で力のない僕と、みんなから信頼される”園田”さま。どちらの言うことが信じてもらえるかなんて、火を見るよりも明らかだ。



「な、なにが、もくっ目的なんですか…」
『泣くなめんどくせえ…』
「、」
『そのケータイ、俺が電話したらすぐ出ろよ。出なかったらどうなるかわかってんだろ』
「え、そんな、出来な…」
『いつも出られるようにしとけよ』




有無を言わさず、あっさりと電話が切られた。



なんで僕、こんな目に合うんだろう。


ヴーヴーヴー



【匠ちゃん、ごめんね!先ごはん食べちゃってるよー!会が終わって合流できそうなら食堂集合(^^)/★あ、皆川潤くんとお話しできそう?そっち優先でだいじょぶだからね!】



僕の携帯の方にのむちゃんからメールが入っていた。そうだ、潤ちゃんと話したかったのに、僕…。それどころじゃ、ないや。



【書記の親衛隊の子に聞いたら、潤くんはやっぱり嫌がらせの現場に居合わせただけなんじゃないかな?って言ってたよ!僕もそう思う!恋心かくして会長親衛隊に入っちゃったから、ややこしくなっちゃってるのかもしれないけど…!誤解、晴れるといいね…!】




相変わらず、びっくりマークが多いのむちゃんからのメール。



ねえのむちゃん、「にせもの」の気持ちで会長親衛隊に入ったのは、僕もいっしょだよ。




だからこんなことになっちゃったのかな。



自業自得なのかな。



誰か、助けて。




誰か。




A-dur おわり

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