あの燃え盛る炎を、呆けたように眺める子供。
百と、数十年前のことだ、いくら鬼の感覚でも、それほど前となるとさすがに過去になる。二十年三十年、少なくとも彼女がいた何十年はあっというまだと考えていたと思うのだが。不思議なものだ。


拾ってきた子供は百年生きた。
すぐ死ぬと思っていたが、その命は彼の予想よりさらに短かった。花の落ちる春の日に、薄情なくらい呆気なく、眠るようにして。そうやってたった百年ぽっちで死んだ彼女はどこが悪かったのか、彼は医者の男を問い質したが、男が言うにはそれさえ本来有り難いことであったらしい。

人は五十年生きれば本来御の字であるのだと聞いた時、彼は目眩を覚えた。

それからさらに数十年、彼女を拾って百ともう百近く。
それでも彼は、昨日のことのように思い出せる。あの日、ごうと燃えた炎の唸り声。抱えた幼子の重さ。その暖かさ。不思議なことだと思う。その日の行きに仲間と交わした言葉も、逃げ果す者のないよう火を放ったときの感情も思い出せないのに、少女のことだけは今でも鮮やかなのだ。
何もわからない哀れな子供はあの日母はと問うたくせに、それきり一度も家族のことを口にしなかった。あの夜以降人と交わらず、時の流れも文化も違う鬼の中で生きるようになった可哀想な子供。

数百年を生きる鬼たちに囲まれて、少女が年を取ることに絶望しなかったのは幸いであり、それは彼のおかげであるのだと医者が彼に言ったとき、彼は首を傾げた。

「何も変わらなかっただろう、あれは。」

気まぐれを起こして拾った子供は時が流れ、拙い足取りで彼を追うようになったとき、彼はそれを愛らしいと思うようになった。
いつかさらに大人びて、彼と頭一つに並び立った聡明な少女を、美しいと思うようになった。
その晩年、しわだらけになり、長かった黒髪が結えるか結えないかの白髪に変わって、背が曲がり彼の腰ほどの背丈になった少女はやはり愛らしく、美しかった。
彼に抱えられたまま、窺うように「へいき?」と問うた少女の声を彼は今でも思い出せる。拙い幼子の声、高い少女の声、大人びた声、少ししわがれた声。
何も変わらない、と彼が毎回返していたこと、それが本心からのものであったことを、彼女は覚えて死んだのだろうか。

「変わらなかった、ねえ」
「?ああ」


「あれは変わらず愛らしかったし、手の掛かる子供だった」と続けた彼に、男が目を丸くする。なんとなく、美しいと思っていたことは伏せた。

驚きに目を丸くした男は、次に噴き出したかというと大笑いした。
ひとしきり笑って、「そういうところだろうな」と また笑う。

青年ははじめ怪訝そうにしていたが、再三笑い始めた男が「手が掛かったのはどっちだろうな」と言ったのには、分かりやすく眉根を寄せた。


彼女と同じ名をした花が今年も咲く。
須臾を生きる花はその盛りこそ一瞬ではあるが、それを不憫に思うことはもうない。
花は来年もまた咲くし、そうでなくても記憶には残るものだ。そう捉えるようになったのは、少女が死んでからだ。

あの日拾った幼子に花の名前を与えたことを、彼は今でも出来過ぎであるように思う。
須臾のいきものでありながら、永遠に似
て永らえる。


彼にとって、少女と花はとても良く似ている。

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