若い父とその娘のように見えていた二人はやがて兄妹のようになり、恋人同士のようになり、姉弟のようになり、母子のようになり、いつからか祖母と孫のようになっていた。

差し出された腕に、老婆となった少女が大人しく身を委ねる。青年は軽々と少女を抱き上げた。

「重くない?」
「ああ」
「へいき?」
「昔と何も変わらない」

すこし口数が多くなって、すこし表情が豊かになった青年が呆れたように続ける。

「本当に、いつまで経っても手の掛かる」
「ふふ、ごめんね」

意に介さず少女は笑う。青年が無愛想なのは元からだし、彼がこれで存外彼女に世話を焼くことを好んでいることを彼女は知っていた。

「お前荷物あるだろ?俺が抱えるよ」
「別に良い」
「遠慮せずにさぁ」
「じゃあ頼む」
「おーやっと素直にって荷物の方かよ……わかってたけど……」
「お前は落とす」
「落とさねえよ」
「駄目だ」
「心の狭い男は嫌われるぜ?」
「五月蝿い」

頭上で交わされる小気味良い会話に少女はまたくすくすと笑う。ただ一人の家族である彼とその友人はとても仲が良い。

抱えられたまま、青年の顔を見る。すこし、大人びたような気がする。
盗み見ている少女に気付いた彼が、言い争いの応酬を止めて 彼女の目を覆った。すこし冷たい手のひら。少女は彼の手が好きだった。

「見えないよ」
「照れてんの?」
「五月蝿い」
ぐらりと揺れる、「うお、」友人の声。青年が友人を蹴り飛ばしたらしい。

「蹴ったらだめだよ。……へいき?痛くない?」
「平気平気。やーほんと優しい。どっかの心の狭い暴力保護者とは大違い」

頭をわしゃわしゃと撫でられる。青年が無言でその手を払ったことで、目を覆っていた手が外れた。

そうやってすぐ手を出す!さっきのは足だ。そういう問題じゃない!再び二人が言い争う。何十年も前から変わらない光景だった。

「二人は仲が良いのね」
仲良くない!と返す声が二つ重なったのを聞いて、今度は三人で笑った。

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