今夜の少女はお喋りのようだった。珍しいことだと思う。共に過ごす時間の割に、二人が交わす言葉は少ない。年頃の割には高くない、大人しめの声がぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。今朝咲いていた花の話、友人の話。その響きは雨垂れのそれによく似ていた。
「わたし、結構背が伸びたとおもうのだけれど」
「ああ」
本当に、大きくなった。十年前は腰ほどの背丈もなかったのだ。
「それでもずいぶんかんたんに抱き上げるのね、おもくないの」
「別に。前と変わらない」
「うそ」
嘘ではなかった。彼からしてみれば、五つに満たなかった幼子も十年経った今の少女もさほど変わらない重さをしている。
むしろ大人しく抱かれているようになっただけ、今のほうが抱き上げやすいくらいだった。
「わたし、となりのおねえさんの背、追い越したの」
「そうか」
少女が言う"隣のお姉さん"の背丈は、十年前からほとんど変わっていない。少女だけが伸び、変わらないその背丈を追い越した。
あのね、少女が再び口を開く。
「わたしだけ、老いていくのかしらって、おもうのよ」。
青年は返事をしなかった。少女ももう、それ以上何も言わなかった。