愚かな幼子は自らを抱き上げる腕の恐ろしさも知らない。
全てを食らい尽くさんとする炎をぼんやりと眺めているところを、彼が拾った。気まぐれだった。無言で差し伸べた手に、幼子は大人しく身を委ねた。だからそのまま抱き上げた。
ごうごうと音を立てる炎に背を向けて、二人の一つの影が歩き出す。
幼い子供はその炎の意味も理解していないらしい、なんてことのないように問う。

「かえる?」
「ああ」
鬼の村へ。

「かかさま、どこ?」
「さあ」
生きていないことは、確かだと思うが。

大事なことは何も答えていないのに、幼子は「そっか」と場違いなほど気の抜けた声を出して、大人しく抱かれたまま彼の胸に凭れた。

「ひ、きれいね」

彼は返事を返さなかった。それから、初めて、この小さないきものを可哀相に思った。


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テーマ「人外ファンタジー」
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