昔からなんでもできる子だった。だから誰からも愛された。でも僕がいちばん好きだった。


 いちばん最初。良い子だねって誰かが言ったから、先生に嘘を言いました。
 僕が壊したおもちゃなのに、怒られてるあいだ一度も言い返さなかった。言い訳をしない代わり謝りもしないきみに、先生が呆れたように溜息を吐いたのを覚えている。なんて頑固なのって。
「ごめんね」
「いいよ」
 良い子じゃなくても、きみがすき。


 足が速くてかっこいいって誰かが言ったから、走らなくていいよって突き飛ばしました。
 得意だった体育も見学するようになって、リレーの選手にも選ばれなくなって、いつも早足だった君はすこしゆっくり歩くようになった。
「ごめんね」
「気にしてないよ」
 二度と走れなくたって、きみがすき。


 神童だって誰かが言ったから、同じ高校に行ってって言いました。
進学先は、半分が同じ中学から進学するような地元の公立高校。有名私立は名前だけ書いて落ちたって。先生たちは首を傾げて、気を落とすなと肩を叩いた。がっかりしたのは自分たちだったくせに。
「ごめんね」
「なんともないよ」
 賢くなくても、きみがすき。


 優しいところが好きって誰かが言ったから、誰にも優しくしないでって言いました。
冷たい人だって噂はしだいに広まって、賑やかだった君の周りは少しずつ静かになった。人はなんて薄情なんだろう。
「ごめんね」
「いいよ」
 やさしくなくても、きみがすき。


 君にだけは優しいよねって言われたから、もう僕にも優しくしないでって言いました。
話しかけても無視されて、たまに返ってくる言葉も冷たいけど。
「ごめんね」
「うるさいな」
 冷たくされても、きみがすき。


 良い子だとか、運動ができるとか、優しいだとか、僕はそんなところを好きになったわけじゃないんだって、言いたかった。
 上っ面ばかりのやつらが大きな顔をするから、そんなのとは違うって言いたくて、僕は。



──あいつ、性格悪いじゃん。口だけでなんもできないし。

 「お前、顔目当てなんだろ」って、嗤ったやつがいたから、皮膚が焼ける音を聞きました。

「ごめんね」
「     」

 がんばらなくたって何もできなくたって見返りがなくたって爛れた火傷が膿んで悪臭を放ち愛らしかった顔が見る影もなくなって身の毛がよだつほど醜悪なものになって動かすたび引き吊れて痛む皮膚がきみの表情を奪ってあの笑顔が二度と見られなくたって君が僕を憎んでたって誰もが君を見放したって、きみがどんな人になったって、僕は君をあいしている。
 だって、僕がいちばん、すきだから。

「あたしのほうが、××ちゃん好きだもん。
おままごとするから男の子はあっちいって」

 だからもうだれも奪おうとしないで。

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