先輩の光が、強くなった気がする。
あの夜の天体観測から、一週間と少し。久しぶりに会った先輩は、光を増していた。
「これ、約束の本」
手渡されたものは、小さな本で、ぱらぱらと捲れば星座の逸話や構成する星について記述してあるようだった。
「ありがとうございます、お借りします」
「いえいえ、」
「…」先輩を、見る。
あいかわらず光るけど、やはりいつもと様子が違った。
「…先輩、いつもより光ってません?」「…そう?」「なんだか、なんとなく」
先輩は、少し沈黙した。
「そうかな、自分じゃわからない」
「そうですか」そういうもの、なんだろうか。いかんせん私は光らないので、わからなかった。
手持無沙汰に、受け取った本をまた開く。
何度も開かれたであろう跡が何か所かついていて、この前見たアルビレオの頁には栞が挟んであった。
「…ほんとうに、星が好きなんですね」
「好きだよ」 星は、世界を変えるから。
迷いのない声だった。先輩は、笑っていない。視線が、私を射抜いていた。
世界を変える、星。
「知ってた?星は、終わるときが新しいんだ」
それから数回、先輩は会うたびに光を増した。
ぴかぴかとまではいかなくとも、初めのころの淡い、あるのかないのかわからないような光ではなくなっていた。
溶かすように灯っていた光は、じわじわと何かを燃やすように存在していた。
一段と冷え込んで、私の制服のポケットにカイロが常駐するようになったころ、先輩は図書室に来なくなった。
図書室で会わないのだ、今更他のところで偶然出会えるはずもなかった。
私は、先輩に一度もあっていない。
閉館ぎりぎりまで図書室にいて、一人で帰る。
寒い夜には、星がよく映えた。
オリオン座が、空に昇った。
冬の大三角を、初めて見た。
本はまだ返していない、会わないからだ。
返すにも、私は先輩のクラスを知らなかったし、探すことは、私たちの間では間違いな気がした。
付箋だらけの本を見て、幼馴染が私の頭を撫でた。
星喰い
星食、という現象があるそうだ。