「あ、」光る人。小さな呟きは本人の耳に届いたらしい。
放課後の図書室で、俯いて本を向いていた顔が、ゆっくりとこちらを向く。
"光る人"は私と視線が合うと、まるで一枚の絵のように微笑んだ。
そして、光る指がそっと正面の席を示す。「本、取ったら、ここにどうぞ」
誘われる理由もないけど断る理由もなくて、促されるままそこに荷物を置いた。
本を探しながら、そっと彼の人を盗み見る。薄暗いからだろうか、やはり少し光っているように見えた。
光る、ほど明確ではない。灯る、燐光。あるいは、発光している。
いつもより時間をかけて本を選んで、席に戻る。
手に取ったのは、前にも一度読んだことがある本だった。
失敗した、と思ったけど、また本棚へ向かうのも不自然な気がして、そのまま席に座った。
正面に座った私を、光る人が見て、また笑いかける。よく笑う人だ、そう思った。
光る人が、口を開く
「古橋です、二年生」「あ、一年、猫原、です」
「猫原さん、ね。猫原さんは、C組?」
「いえ、A組ですけど…」「そう、」なんで、C組?私の疑問に気付いたかのように、光る人、改め古橋さん…古橋先輩は口を開いた。
「知り合いが、いるんだ」
「知り合い、ですか」
「うん」知り合い、便利な言葉だ。不明確な言葉、私もよく使う。
別に深く追求する気はなかった。する理由もなかったからだ。
するともなしに、ぼんやりと目の前の先輩を見る。
覆うもののない、剥き出しの部分。手や顔、それに首が、確かに光っていた。
「やっぱり、気になる?」呆れたような、少し困った笑みが向けられて、自分が不躾に先輩を見ていたことに気が付いた。
「すみ、ません。じろじろ見て、」
「ううん、」俺も、気付かれたの初めてだから。先輩はそういった。
「…うそだぁ」こんなに綺麗に光るのだ、気付かないわけがない。
「本当だって」
「嘘です、」
「ほんとう、俺、いつも明るいところにいるし」
それなら、何故薄暗い図書室にいるのかが疑問になるけど、別にきかない。
「…なんで、光ってるんですか?」
「星だからね」そりゃ光るよ、と先輩。
「蛍も、光りますよ」
「蛍は俺じゃないよ、」
俺じゃない、ということは、誰かは蛍なんだろうか。
いつから光ってるのだろう。
とにかく、少なくとも先輩は蛍ではなく、星らしい。
「星、すきです」「そう、俺も好きだよ」「先輩は、星ですか」「本当のところは、どうだろう」
そうだったらいいんだけど、神妙に呟いた先輩は、すこし女の子みたいだった。
「星ですよ、きっと」「そうかな」「はい」
声を持つ星
なんだかよくわからないけど、こんなにも星を望む人が光っているのだ。
星でないのなら、おかしい。