一緒に死んでよと言った。
 「別にいいけど」と返されてこれが夢だと気がつく。

「いいんだ?」
「あんたがそうしたいなら」
 いつも通りの不機嫌顔とありえない言葉の組み合わせに笑ってしまう。いや誰だよお前。舞台は放課後の教室で、二人きりのそのシチュエーションこそがまさしく都合の良い夢だった。俺とお前、去年も今年も別のクラスなのにな。

 いつからかは知らない。けど、一緒に死ぬなら、目の前の彼女みたいな人がいいと思っていた。諦めてない人がいい。強い人がいい。優しい人がいい。ほんとは生きていける人がいい。死ぬ必要なんてない人がいい。死にたいなんて弱音を吐いたとき、叱り飛ばしてくれる人がいい。自分と正反対の人がいい。瀬戸原美利河がいい。

 もちろんおれは死にたくなんかないし、瀬戸原と死ぬのだって御免だし、それは瀬戸原も同じだろう。 馬鹿げた空想は願望でさえない単なる思いつきで、ただのもしも話だ。


 夢の世界の瀬戸原が口を開く、やっぱり不機嫌そうな顔のままで。「それで、どうしたいの」夢の中でくらい笑ってくれたっていいだろうに。そこはおれの想像力の問題なのかもしれないけど。

「どうしたいって?」
「死に方。飛び降りる?飛び込む?それともお揃いの縄で首でも吊る?」
 
 うわ、積極的。思わず笑いそうになったおれに瀬戸原が不思議そうに首をかしげる。それでも何も言わないのはおれの言葉を待っているからだ。都合の良い夢だから。一方おれはとんだ意気地無しで、夢の中でさえ息を呑んでやっと茶化さない返事ができる。

「なんでもいいよ。一緒なら」
「そう。私も」
「瀬戸原」
「なに」
「ひとつ聞いてもいい?」
「うん」


「おれのこと、好き?」
 その瞬間、瀬戸原が笑った。現実の世界で一度もおれに向けられたことのない、無邪気な顔で。
 "夢にまで見た"? それとも"今まさに夢に見ている"? どういうべきかわからないけど、瀬戸原がおれに笑っている。ああなんて都合の良い。今度こそおれも笑う。都合の良い夢だから、返事は聞かなくてもわかっていた。




「大嫌いよ」
「はは、ひっでえの」

 ほらね。


 目が覚めたとき、なぜか笑っていた。望み通りだった夢の中でも彼女は冷たい。おれってマゾなのかな。

 いつも不機嫌で顰め面の女の子。一緒に死んでくれない君が好きだよ。別に恋してるってわけじゃないけど。

「#総受け」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -