顔が良い、とか、可愛いね、とか、スタイル良いね、だとか、聞き飽きたって言ったらまた陰で何か言われるんだろうけど、外側ばかり褒められたってなにも嬉しくなかった。
それを言ったら私の唯一の女友達(これは誇張ではない、残念ながら。)はなんてこともないように言った。
「外見で褒めるところがない方が悲惨ですよ。見た目で頭が良さそうだとか、そういう褒め方になります」
これはこれで頭が良さそうだとかいうやり方で褒められるすべての人類を敵に回しそうだけど、不思議と碧はそういう敵を作らなかった。私と違って言う相手を選べるからだろう。誰彼構わず思ったことを口にしてしまう正直は美徳ではない、と、自覚はある。
「ピリカは随分外見に感想を受けるのを嫌がりますね」
そのせいで嫌な思いもしたからでしょうけど、とやっぱりなんてことのないように言う碧が好きだ。
パパとママから受け継いだこの外見を私は気に入ってるけど、それを人に品評されるのは不快だった。これまで嫌なことが多すぎたのだ。
碧は顔が良いからエンコーしてるだとかスタイルが良いから教師をユウワクしてるみたいなことは言わない。碧にとっての私の顔は個体識別のための通し番号にすぎないからだ。1268378と1268379のどちらが魅力的か、なんて問われても碧は首を傾げるだけだろう。けれど世の中にはその片方を貶したり崇めたりする人は沢山いる。
「女子は陰湿だし男子は幼稚。私はどっちも嫌い」
でも碧は好きだよ、あと三木も。付け加えても碧は眉ひとつ動かさなかった。
「それは光栄ですね」
「うん」
「あとその結論だと友達を作るのは到底無理そうです」
「碧ほんとそういうところだよ」
碧は女子特有(、というが私は男子にも十分その性質はあると思う。)の粘着気質を持たない代わりに、わりと遠慮のない物言いをする。言葉に飾り気もない。人当たりも良いし誰とでも話せるのに、特別親密な相手が増えないのはそういうところだと思う。(あとは私といるからか。)
碧の指摘は正しいし、事実碧(と三木。)しか友達が居ないのは私の悩みでもある。友達が欲しいとは正直常々思う。友達がいないのは人間性の問題なのかなと落ち込んだりもする。それくらい私にとって友達がいないことは重大で由々しい事態だった。友達なんて居なくたって平気だと、開き直ることができるほど十六歳の私は達観していない。でも、と思う。
「気にくわないからって陰口叩いたりからかってくるような程度の低い人間の友達は要らない」
今日の昼休み、告白をされた。付き合う気もない、好きでもない、面白半分のゲームみたいな告白。相手の友達らしき数人が物陰から様子を窺っているのもすぐにわかった。
癇癪姫、と揶揄されてるのは知ってる。知ってるから、できるかぎり淡々と断った。でも結果は変わらない。「やっぱり無理だったべ」と笑い合う男子。「お高く止まってる」と言う教室の女子。
そういう人たちと友達になりたいか、と言われたら答えは否だった。
私の言葉を聞いた碧が、一瞬目を丸くして言う。
「そういうところです」
「こういうところかあ」
だったら友達出来なくていいや。と素直すぎる声を上げた私に碧が笑う。
「あと私、ピリカのそういうところ、好きですよ」
うん、じゃあますますいいや。と思うのはきっと良くないことなのだろう。けど。
「私も碧のそういうところ、好きだよ」
褒めそやす賞賛でもこき下ろす悪罵でもなく、碧の言葉はただただ簡素で時に迂遠だ。
けれど。そっけなくとも耳に心地良いそれが得難いものであることを、私はよく知っているから。