(※現パロ名前変換なし) 綺麗な髪だ まとめたりしたら、もったいない いつかあなたが呟いた言葉に、私は今もすがりついている。 白いシーツに散った髪は、たったひとり、あなたのためだけに伸ばしているということ。私に裸の背を向け煙草の煙をくゆらす阿近は、きっと知らない。 「煙草、一本ちょうだい」 「お前、昔咽せてからもう吸わないって言っただろ」 「今日は吸いたいの」 シガレットケースから差し出された一本を受け取り、口にくわえる。阿近の匂いがする。まるで阿近とキスしてるみたいだ。 阿近がつけた火に煙草の先を寄せる。暗い部屋にぼんやりと灯った灯りの中で、阿近の顔をこっそりと盗み見た。 暗闇の中での逢瀬。それがいつからか、私たちの間で決められたルール。 阿近があの言葉を呟いた次の瞬間からすべてが始まり、私たちは何度も何度も暗闇の中、真っ白なシーツの上で、真っ黒な関係。 誰も知らない秘密。光の下での主従関係も、此処では意味を成さない。 「…阿近」 「なに?」 「結婚が決まったわ」 子供の頃から許婚と決められてきた相手がいた。 それも親に敷かれたレールの上を盲目的に進んできた、ひとつの通過駅でしかない。この先もずっと、ずっと。このレールは続いている。 脱線したら、どうなる? 陽の光の下、あなたと一緒に、自由な道を…。 白いシャツに腕を通し、きっちりと止める襟元のボタン。その上にきつく締める黒いタイ。 もう何度も見てきた阿近の正装。その姿に身を包んだ瞬間から、阿近は私の専属ボディーガード。 黒い背広を肩にかけ、阿近が私を振り返る。暗闇の中、表情はよくわからない。 す、と伸びてきた手に、すがりつきたい衝動にかられる。 「…花嫁が、煙草はまずいな」 そう言って私の指に挟まれた煙草を取り上げ、阿近は部屋を出て行った。 「…バカ」 期待が叶うだなんて、信じてはいなかった。だけど。 これが最後だなんて、あまりに救われない。 |