その時、男の目が薄く開いた。
…起きちゃった?何故だか、起きてほしくなかった。
男は二、三まばたきをし、部屋の中をゆっくり見回した視線は私で止まった。
数秒間、見つめ合った。なぜか目をそらせず、手当ての手も止まっていた。
しばらく見つめ、少し安堵する。先ほど見せた肉食獣の瞳。「近付くな」、のオーラは消えている。

「……?」

しばらくして彼は私から目をそらした。頭の上に「?」がポコポコ浮いているのがわかった。表情に出ているわけではなく、むしろ全くの無表情なのに、容易に理解できるのが不思議でなんだかおもしろい。

「…大丈夫?」

天井をぼんやり見つめる男に聞いた。反応はない。まぁ倒れていたくらいなんだから大丈夫とは言えないだろうけど。

「…ここ、あたしの部屋。あなた、マンションの入口に倒れてたの。覚えてる?」

また反応はなかった。どうにも気まずい空気の中、返事が望めないと諦め、手当てを進めた。
そっ、と青く腫れた腕に触れた。ビクンッと男が身じろぐ。

「あっごめん、なさい…」

パッと手を離す。だが、男はただ大人しく天井を見上げていた。
今度はもっと優しく、傷に触れる。

「……あたし、雪那。あなたは?」

やはり答えはなかった。だが、名前を言った時チラリと男は私の顔を見た。なんとも形容しがたい表情。すぐに視線は天井に戻された。
何も言わないのなら、聞かない。聞かれたくないのなら、聞かない。
そう決めた。聞く必要もないと思った。
手当てが終わる頃、男は再び目を閉じた。とりあえず毛布を掛けてやる。


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